大阪のメディアを考える「大阪読売新聞 その興亡」58(社会部復帰編2) 安富信

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里山フクロウにほのぼの

 枚方市の里山、尊延寺という地区にフクロウがいるという。地区内の新しい住宅地、氷室台に住んでいる稲森郁子さんに会った。彼女は、初めて会った新聞記者にここの自然の豊かさを訥々と話した。そして、この自然が失われてしまうことへの危惧も。
 フクロウの写真を見せてもらった。これは行ける!と直感した。何とも愛らしい姿が捉えられていた。里山の自然の素晴らしさと同時に、守らなければならないものの大切さを一目で訴えられる。接写して持ち帰り、原稿を書いて、社会部次長に売り込んだ。社会部次長になっていた加藤譲さんが気に入り、数日後、なんと夕刊の一面トップを飾った。
 筆者は、枚方支局長に異動して直ぐの、平成5年(1993)10月か遅くても11月初めだと記憶していた。いつものように神戸市中央図書館2階で「原紙」と呼ばれる読売新聞大阪本社版(東京版とはかなり違う)を捲るが、なかなか見つからない。12月半ばだった。懐かしい! 今見ても、フクロウの目がつぶらで可愛い。切った張ったの記事がほとんどの筆者の歴史の中で、唯一と言って良い、ほのぼのとした記事だ。

 実は、この枚方支局で翌年夏までに書いた記事が、記者人生前半の最後の記事となる。この後、ほんの少しだけを除けば、50歳を過ぎるまで記者じゃなくなるのだ。しかし、まだこの時は、そんなこと知る由もなく、取材して記事を書く喜びを満喫していた。
 全く忘れていた記事もあった。これも稲森さんが提供してくれた記事だった。氷室台の稲森さん宅に猟銃の弾が少なくとも5つも飛び込んだのだ。1月半ばだった。里山では狩猟期間中だったが、新興住宅街に弾が撃ち込まれるなんて言語道断だった。これも、自然と人間の共存という意味では、大きな警告となったと自負している。ついでにこの記事の下に、「ぼく 悪魔ちゃん」の記事が見える。実子に「悪魔」と命名しようとした東京都内の「悪魔ちゃん命名騒動」だ。この後、変な名前の届け出騒動が相次いだ。その先駆けだった。最近では、キラキラネームだが。

江戸期の「立木支配権」で用地買収ストップ

 枚方市は面白い町だった。人口40万人を超える中核都市で、江戸時代から京から大坂への淀川三十石舟のうち、枚方の小舟だった「くらわんか舟」が停泊する枚方宿があり、古い歴史を持つ街でもある。反面、大阪のベッドタウンとして開発が進んだ。京阪奈に属する自然豊かな地区も残っている。ここでの10か月間の”最後の記者生活“は勉強になったし、かなり刺激的だった。古さと新しさ、開発と自然が雑居した町だった。稲森さんのように自然保護を訴える人たちを多く取材したが、もう一つの勉強の場は、議会だった。
 地方都市の議会は、「ネタの宝庫」だと今も信じている。不思議に今の新聞を読んでいて、「あっ、これは議会から引っ張って来た記事だな」と思われる記事はほとんど見られない。残念なことだ。地方の議会をゆっくりと見て、聞いて、取材する余裕などないのだろうか。知らなかった事をたくさん教えてくれるのに。読売原紙を繰っていて、そんなことを思った。
 
 平成6年(1994)2月の夕刊社会面トップに変な記事が載った。「江戸期の権利 工事待った」「立木支配権 バイパス工区に 枚方」「十数人所有 買収困った」。要するに、江戸時代から残っている立木支配権という土地の所有権があり、その権利者が市外に点在しているために、バイパス工事の用地買収が進まないというのだ。これも、稲森さんが住む氷室財産区での話だった。市議会の何かの委員会を傍聴していて引っ掛けた。いかにも枚方らしい話だし、他の市でもあり得る話だ。土地の所有権の複雑さは何処にもある。次に全国版のニュースになったのは、同市を通過する予定の第二名神の工事に関して市の環境アセス条例が、「国や府の事業には適用されない」という条文があるために、第二名神に関しての環境アセスが作成されないことがわかったという記事。これも住民団体からのヒントを得て、議会を注視、勉強した結果の記事だった。

「建前と本音」が日本社会を脆弱化

 次に書いたのは、筆者が大好きな市役所幹部いじりだ。特にいじるのが好きなのは首長だが、今回は助役だった。6月の朝刊社会面準トップ、枚方市の橋本助役が議会で答弁したことが「2枚舌とわかっていた」というものだ。これも先の第二名神建設に関したもので、住民団体が排ガス、騒音対策として通過する市域を全て地下化することを求めていたが、枚方市は府に42項目の要望書を出したが、「全線地下化は初めから無理な話。(要望書を出したのは)市民に対する2枚舌だ」などと筆者の取材に答えたというもの。つまり、市民の要望に対して、形だけは府に要望書を出したが、鼻から地下化は無理だと公言したものだ。この記事に対しては、広報課をはじめ、多くの枚方市職員から反発を食らった。「橋本助役は真面目な人だから、安富さんに本音で話したのに、それを記事にするなんて」とか、「議会対策や住民対応として当たり前やん」とか。しかし、今でもその反論は間違っていると確信している。そんなことだから、建前と本音は違うのだという、わかりにくい日本の社会を形成しているのだ。「わかる者だけがわかる」という社会は脆く崩れやすいのだ。今の日本の社会はそれが如実に進んでいる。

 そんな思いは、ストレート記事だけでは書き切れないので、上記のような「?」という欄で書いた。3月からT君に代わって守口通信部に赴任したF君もしっかりと書いてくれた。一番右は枚方支局員ではなく、阪神支局芦屋通信部にいたM川記者が同時期に書いた記事だが、面白いのでついでに。こうした楽しい記者生活は、この年の夏、突然の阪神支局3席への異動で幕を閉じた。しかし、この年には、いかにも翌年からの予兆なような「変な事件や出来事」が多くあったので、次回は「枚方支局番外編」として書こう!なんのこっちゃあ。(つづく)

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