ゲノム編集トラフグがふるさと納税返礼品に! 宮津市からの報告① 文箭祥人 

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昨年12月20日、京都府宮津市の友人からメールが届いた。

「ゲノム編集されたトラフグが宮津市のふるさと納税の返礼品になった」

ゲノム編集技術は人工的に遺伝子を操作する技術。

この新しいバイオテクノロジーによって、レプチン受容体遺伝子が取り除かれて、できたのがゲノム編集トラフグ。この遺伝子がなくなると、どうなるか。食欲を調整することができなくなり、食欲が旺盛になり、早く成長する。不自然な魚だ。

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自然豊かな宮津の海

私がはじめて宮津で釣ったのは手のひらサイズのアジ。釣ったその夜、刺身にして食べた。「もう、これだけで十分。他に何もいらない」、うまかったなぁ。その後も、地元では白イカと呼ばれる高級イカを釣った。これまた、とてもおいしかったなぁ。今でも胃がそのうまさを覚えている。写真は4月上旬、連子鯛を釣った筆者。

春先、なまこを食べた。「なまこってこんなにうまいんだと」とびっくり。スーパーで見たイワシの大きさとその安さにもびっくりした。

友人の知り合いからは、「これから○○がうまいよ」とか「△△はこうやって食べるとおいしいよ」と教えてもらった。また、「干物もうまいよ」、「ちくわもあるよ」とどんどん、魚の話が出てくる。

どうしてうまいのだろう。

宮津は近くに豊かな山々があり、いくつもの川が湾に流れ込んでいる。そして、栄養分を豊富に含んだ湧き水が陸地にも海底にも湧き出ている。だから海に植物プランクトンが増えて、それが動物プランクトンを、そして小魚を育む。そして栄養豊富な小魚を食べるアジなどといった魚はうまいのだそうだ。

こんな宮津の海に、ゲノム編集トラフグがでてきた。メールを送った友人は釣り船の船長だ。こう嘆く。

「おいしい魚がたくさん釣れますし、寒い中、命をかけて漁師さんがとってこられたお魚がいっぱいあります。本当に情けないです」

ゲノム編集トラフグを歓迎する宮津市長

ゲノム編集トラフグは、2021年12月10日、宮津市のふるさと納税返礼品となった。12月末時点で、30件が販売されたという。

12月4日、城崎雅文宮津市長はツイッターにこう書いている。

「ゲノム編集技術を利用して開発された高成長トラフグ『22世紀』を食べました。ぷりぷり食感で最高でした!まさに未来の味」

さらに、返礼品として出回るようになった12月10日のツイッター。

「宮津市のふるさと納税にゲノム編集技術で開発された『22世紀ふぐ』が登場しました!まさに未来の味です!皆さま応援よろしくお願いします」

『22世紀ふぐ』がゲノム編集トラフグの商品名。市長は絶賛し、販売に協力を求めている。

ゲノム編集トラフグを生産しているのは、宮津市内に生産場があるリージョナルフィッシュ社。12月10日、社長の塩川忠典氏はツイッターにこう書いている。

「ついに!宮津市から、ふるさと納税を出すことができました。リージョナルフィッシュは「地魚」という意味でして、まずは京都府宮津市で「地魚」を作り、地元の産業にしていきたいという夢を抱いています」

リージョナルフィッシュ社はゲノム編集トラフグを宮津の「地魚」だという。今後、宮津市で経済発展したいと意気込む。

市長やリージョナルフィッシュ社の思いとは逆に、ゲノム編集トラフグについて、いくつかの疑問を感じる。

不自然なトラフグは食べて大丈夫なのか?

おいしい魚がとれる宮津で、どうしてわざわざつくるのか?

なぜ、市はふるさと納税返礼品に採用したのか?

宮津市の漁師たちや市民はどう受け止めているのか?

消費者からすれば、未知の食品であるゲノム編集トラフグの安全性が、もっとも気になる点だ。

市議会で繰り返し問われる安全性

宮津市議会。2021年12月7日、はじめてゲノム編集食品に関する質問が行われた。写真は、市議会議事堂が入っている市庁舎と隣接する公園。公園に「祈り(細川ガラシャ夫人像)」が建てられていて、案内板には「宮津の民の幸せが末永く続くことを心から祈る姿を作品に表現されている」と書かれている。

この日、長林三代議員が質問することになり、長林議員にあちこちから多くの電話があったという。「食べて安全なのだろうか」、「健康に影響しないのか」そういう市民の声だ。

そして、長林議員は「日本のあちこちで研究開発されているゲノム編集食品について、宮津市のお考えを伺いたいと思います」と切り出した。質疑の中で、ゲノム編集トラフグの安全性に関わる発言を取り上げる。

「安全審査は必要ない」と答弁

長林議員は「なぜ、ゲノム編集食品が開発され、出回ることになったのか。その背景について伺う」とゲノム編集食品全般についての質問を行った。これに対して永濱産業経済部部長が国の制度を次のように説明した。

「日本では、ゲノム編集食品に関して、自然界や従来の品種改良でも起こり得るような遺伝子変異が生じるものは安全性もそれらと同程度と考えられることから、遺伝子組み換え食品とは違い、安全審査は必要ないと判断され、届出を行う制度が新設されました」

ゲノム編集技術によって起こる遺伝子の変異は、自然界や品種改良で起こる遺伝子変異と安全性において、同じようなものと考えられる、だから安全審査も必要ない、と説明。

次に長林議員は「安全性は年月をかけて確認していくものだ」と指摘した上で、こう質問した。

「市として、ゲノム編集食品の問題点はなんだと認識しているのでしょうか」

永濱部長の答弁はこうだ。

「ゲノム編集の問題点として、編集時に意図しない場所を切断することによる変異が起こる可能性があるとされます。ただ、これは従来の品種改良と同様に、交配などの過程で取り除くことができることなどから、食品安全上も従来の品種や食品と変わらないというふうに考えてございます」

ゲノム編集食品は、現在流通している食品と、安全性において変わりはないと説明した。

「市は安全性を調べていない」と回答

筆者は宮津市に情報公開請求を行い、「ゲノム編集トラフグについての安全性について、関連するすべての情報(市での調査や議論など)」を求めた。

市から「行政文書不存在決定通知書」が郵送された。文書はないと回答したのだ。通知書に「行政文書不存在」の理由が次のように記されている。

「厚生労働省及び農林水産省が定めた通知に基づいて届出がされ、販売されている商品であり、市において調査等を行っていないため」

「国が安全性を確認している」と市側が説明

2022年3月2日、久保浩議員が質問に立った。久保議員は住民からの問合せに対して、どのように市は対応しているのか、問うた。

永濱産業経済部長は次のように答弁した。

「ゲノム編集食品であることに対して、厚労省及び農水省が定めた通知に基づき届出がされ、販売されていることから、国において安全性が確認されている旨、説明しております」

3月3日、長林三代議員が再度、質問した。

「いろいろな人が疑問や不安を持っている。これに答えるために、市が独自に調査するべきだと思うが、どうか」

永濱産業経済部長はやや語気を強めて、こう答弁した。

「国が安全と判断したものに対して、市町村がどのくらい経費がかかるかわかりませんが、調査し証明するということは現実的に不可能ですし、そのような考えはもっていません」

市は、市が自ら安全性について調査せず、「国において安全性が確認されている」と強調する。

食べて安全かどうかは調べられていない

3月2日の久保議員の質問とその答弁に注目する。

「住民がゲノム編集食品を食したことに対しての安全性について、調査されている事例があるのか、この点を把握しているのか、把握しているのであればその調査の結果はどう公表されているのか」

永濱産業経済部長の答弁はこうだ。

「質問のような安全性の調査はないと考えております」

国が安全だとする根拠は、実際に人が食べて、安全だったのかどうかを調べた結果ではないというのだ。

ゲノム編集トラフグに対して疑問や不安を感じている住民らが、3月22日市長に面談。その際も安全性について追及した。次回の連載で報告する。

ぶんや・よしと
1987年MBS入社。2021年2月早期退職。
ラジオ制作部、ラジオ報道部、コンプライアンス室などに在籍。 
ラジオ報道部時代、福島原発事故発生当時、小出裕章さんが連日出演した「たねまきジャーナル」の初代プロデューサー。
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