34年間パレスチナに通い続けた土井敏邦監督のガザ報告 「ガザ住民の視点でニュースをみることが大事」 文箭祥人(編集担当)

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ガザの現状を受け、11月4、5日の2日間、大阪・十三の第七藝術劇場で、パレスチナ取材歴34年の土井敏邦監督作品、ドキュメンタリー映画『愛国の告白―沈黙を破るPart2』が緊急上映された。上映後、オンラインで土井監督のトークイベントが行われた。その模様を報告します。

土井敏邦監督
目次

復興には20、30年かかる。希望がないから、ガザの若者は逃げていく。

土井監督

「10月24日と31日にガザ地区に暮らす友人と電話でやり取りをして、近況を伝えてもらいました。彼は、南部に位置するパレスチナ第2の都市ハーン・ユーニスとガザ市の間にある、デールバラという町に住んでいます。彼からの報告をみなさんにお伝えします」

どういう生活を送っているのか。

「まず、とにかく生活するのが大変な状況だと言います。彼の家の隣にオレンジ畑を持っている人がいて、畑の灌漑用水をくんで、もちろん汚いですが、煮沸して、冷やして飲んでいます。ガザ攻撃があった10月7日から、シャワーを浴びることができません。食べ物は、店に行っても、食糧を買うことがほとんどできません。特に小麦粉です。だからパンをつくることができません。ストックしていた米にトマトと玉ねぎを入れて、ガスがありませんから木片で煮ています。彼は、子どもが3人いて、両親ときょうだい、合わせて10人ぐらいで暮らしていて、食糧が足りないから、1日1食です。問題がもう一つあります。子どもが病気なんです。薬局に行っても、薬がもうありません」

「10月31日現在で、ガザの建物の3分の1が壊されて、あと2週間経てば、2分の1になってしまうと言います。みなさんはテレビで破壊されたガザを見ていると思いますが、夜通し、爆撃音が聞こえます。子どもが怖がって泣き、親も眠れません。彼は毎日、2、3時間しか眠れません。精神的な傷がものすごく、彼だけでなく、ガザに住んでいる人みんなが抱えている問題だと思います」

破壊が続くガザはどうなっていくのか。

「ガザはこれからどうなるのか。彼は「Gaza is over」、ガザはもう終わったと表現しました。2014年のガザ攻撃は50日間続いて、これまでで一番大きな攻撃でしたが、2、3年経って、ある程度回復しました。彼は「今度の攻撃でガザが回復するまで20、30年かかるだろう」と話します。この戦闘が終わって、最初に起こることは何か。彼は「ガザの若者たちがここから逃げていく」と言います。つまり、ここには将来に向けて、希望がないわけです」

欧米の「正義」はダブルスタンダード 

「発端となったハマスによる攻撃を、パレスチナを支持する人たちは「ハマスの攻撃」という言い方をします。しかし間違いなく、これはテロです。一般市民に向かって、音楽祭が行われる場所に入って行って乱射する、家の中に入って子どもや老人たちを射殺する、これはテロです。どんな言い訳をしようと、虐殺です。私もパレスチナを支持する人間ですが、言い逃れのしようがありません」

「欧米の首脳たちは、一斉にイスラエルに来て、‘テロの犠牲者である、あなたたちの味方です’というふうに言うわけです。この、今回のパレスチナ問題があたかも10月7日に始まったような言い方に、私は違和感を感じ、怒りさえ覚えました。国連事務総長のグテーレスが、「確かにハマスがやったことはテロだ。しかし、まったく根っこが無い問題ではない。真っ白なところからこの問題が起きたのではない。根っこにはイスラエルによる占領があるんだ」ということを言いました。しかも、この占領に対して、suffocating occupation、つまり、‘窒息させる占領’と表現しました。まさに、特にガザは、suffocating、窒息させる占領です。みなさんは占領と聞けば、ある地域に外国の軍隊が来て、住民の生活をコントロールする、そういうイメージだと思います。しかし、ガザの場合、地域を封鎖して、水も食糧もガソリン、燃料、これらすべてを、外からイスラエルがコントロールする、これは間違いなく占領です。産業も発展しようがありません。物が自由に入って来ない、農産物などを外に自由に輸出できない。これは完全な占領です。イスラム大学というガザのトップの学生たちが集まる大学がありますが、卒業しても、やっていることは露店の売り子だったりします」

「占領の一番怖いところは、もちろん生活ができない状況にしていくこともありますが、若い人が将来の夢を持てないことも一つです。イスラエルがやっている爆撃、銃撃をみなさんは暴力だという、これは“直接的な暴力で”す。しかし、占領のように、人間が人間らしく尊厳を持って生きていく基盤を破壊していく、これは“構造的な暴力”です。この構造的な暴力も、人々を苦しめます。パレスチナは、1948年の第1次中東戦争以降、それから1967年の占領以降、数十年も、構造的な暴力によって苦しんできました。この苦しみに対して、世界は何一つ、解決しようとしなかった、特に欧米です。その中でも特にアメリカです」

「一方で、ロシアがウクライナを占領する、侵攻すると、欧米の首脳は、その占領は許せない、侵攻は許せないと言うわけです。では、あなたたちは、パレスチナ人が60、70年も占領されてきた現状に対して、何をしてきたのか。つまり、欧米の正義は二重基準、ダブルスタンダードです。欧米の正義はカッコ付きの「正義」です。そこを我々は、きちんと見ておかないと、欧米のメディアに騙されてしまいます。このことを、我々、現地をみてきた人間が声を大にして叫ばなければいけないと思います」

「民衆の視点からこの問題を見ていくことが一番大事だ」

「イスラエルがやっていることは虐殺です。一般住民を何千人と殺しています。その半分近くは子どもたちです。これを虐殺と言わずして何と言うのですか。ハマスも許せない。パレスチナの国家とか、パレスチナの解放とか、そういう名の元にあらゆる攻撃をして、テロを行っています。今回、イスラエルの犠牲者は1日で千人を超えました。イスラエルの歴史上なかったことです。イスラエルが異次元の反撃をすることは誰でもわかります。パレスチナの住民もわかっています。ハマスもちゃんとわかっています」

「こういう意見があります。ガザが激しく攻撃されて、世界的にパレスチナ支持の世論が高まり、各地でデモが起こる、パレスチナ支持の声を民衆の中でつくっていく、そして、支配者と民衆の分断をつくっていく、それによって、イスラエルと湾岸諸国との「和平」への動きを断ち切っていく。ハマスはこういうことを狙っているのではないかという意見です。そうだとすれば、なぜ、これほどまで民衆を犠牲にして、政治的目標を達しようとするのか。ハマスは「パレスチナの解放」と言うが、民衆は「パレスチナの解放」とか、「パレスチナ国家」とか、大きなことを求める余裕はありません。占領時代が良かったと言う人も現れてきています。イスラエルに働きに行って飯がちゃんと食えました。しかし、今は一日一食しか食べられない、将来の夢が持てない。そういう人たちに対して、「パレスチナの解放」と言っても、始まらないわけです。一日一日、食わしてくれ、これが民衆の本音の声だと思います。為政者は民衆を飢えさせない、これが最低限の義務だと思います。ハマスはそれをやっていない、やっていないどころか、5000発のロケット弾を撃つ、一体、その金はどこから来たのか、そんな金があるなら、どうして貧しくて食えない民衆をきちんと養っていかないのか、これが私の正直な気持ちです。民衆の視点から、この問題を見ていく、これが一番大事だと僕は思います」

《ガザのドキュメンタリー映画が各地で緊急上映されている。大阪では、第七藝術劇場で11月3日から『ガザ 素顔の日常』を、12月2日から『愛国の告白』を上映。兵庫では、元町映画館で12月9日から『ガザ 素顔の日常』を上映。各地の上映情報やネット販売は以下のサイトにあります》

●ドキュメンタリー映画『ガザ 素顔の日常』

〇ドキュメンタリー映画『愛国の告白』

http://doi-toshikuni.net/j/aikoku/#theater

●土井敏邦サイト

http://doi-toshikuni.net/j/

〇ぶんや よしと 1987年毎日放送入社、ラジオ局、コンプライアンス室に勤務。2017年早期定年退職

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