令和の日本人への剛速球「戦争映画」~『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』 園崎明夫

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これは、近年めったにない見事な「戦争映画」です。令和の今を生きている、すべての日本人の心のど真ん中に投げ込まれた、剛速球!世の中にはいろんな人がいるので、どんな映画でも賛否様々だとは思いますし、作品の評価軸によって、脚本や美術や芝居についての分析的考察も可能でしょう。ただ、ハッキリ言えるのは、これ見て感動して涙を流さない日本人は、おそらく一人もいないだろうということです。年代問わずです。今、そんな映画はめったにありません。あの戦争末期の時代、普通の日本人が、どんな境涯をどんなふうに生きたのか。令和の今、娯楽映画としての可能な限りの表現で誠実に伝えようとしている貴重な作品だと思います。

ティーン向けの小説が原作で、SNSで「とにかく泣ける」と評判になったようで、映画も、「特攻隊」をモチーフにしたアイドル路線のラブストーリー映画かなと受けとられるでしょうし、広報ビジュアルやコピーもそういう線から外れてはいないわけで、そしてここが重要ですが、太平洋戦争から80年を経た現代を生きる観客が「娯楽映画」として観るには、まさにそういう「ルック」がとても重要だし、まったく正解なのだと思います。

©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

かつて昭和の頃、邦画各社が毎年のように「戦争映画」を制作し公開していたころの作品群と比較して、いろいろ言おうと思えばいくらでも、リアリティがどうこうとか「戦争映画」としても違和感はあるでしょう。しかし、そんなことは、この作品の「本質」からすれば、まったくとるに足りない観点です。

©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

この映画には、令和を生きているヒロインが、1945年6月、敗戦まで2か月足らずの日本にタイムスリップし、愛する人々に「死を強制」する社会に悲しみ、怒り、全身全霊をかけて抗議する姿と、「特攻」という世界の戦史にも稀な非道な戦術の不条理を判りながら、それを受け入れる若者たちの人間性、精神力、知性への敬愛の念が、見事なドラマツルギーで描かれています。

この作品の価値は、そこまでの「戦争と平和と人間」についての考察を、二時間の間、たえず観る人の心を揺さぶり、感動させ、号泣させる娯楽劇場映画として表現し得たこと。そして、そういう作品がまさに今年創られ、公開されるということ、そのことです。

©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

あと、この映画で重要なことは、「現在の日本を肯定している」ことです。平成、令和に日本を「失われた20年」とか「日本の地位低下」とか、そういう今の日本について、ネガティブなことを言いたがる「バブル経験老人」が多すぎます。たいがいのマスメディアもその路線です。ある意味、「ショック・ドクトリン」が世界を覆い、日本にいて、世界各地での「戦争」との連関をどのように捉えるのかは本当に難しいですが、この映画は、昭和の「戦時」を徹底的に否定することと同時に、現在の、今の平和な令和日本を肯定的に、できるかぎりポジティブな時代としてとらえようとしています。そこは、注目しておくべき大事なポイントで、人間が生きてゆくのと同じように、国家や社会にも「自己肯定感」というものは、やっぱり必要なのだろうと思います。いずれにしても、すごい力をもった作品です。

●映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』 12 月 8 日(金)全国公開 配給:松竹

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〇そのざき あきお(毎日新聞大阪開発エグゼクティブ・プロデューサー)

冒頭の写真のコピーライツは©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

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