「映画の力」が迸る傑作!「《戦争と正義》ドキュメンタリー2選」 園崎明夫

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次々と衝撃的な作品を世界に向けて送り出す、セルゲイ・ロズニツァ監督の最新作『破壊の自然史』と『キエフ裁判』(ともに2022年制作)が、「《戦争と正義》ドキュメンタリー2選」として、8月に同時公開されます。

『破壊の自然史』©️Atoms & Void

『破壊の自然史』は第二次世界大戦末期、戦争を終結させるためとして連合軍が行った、敵国ナチス・ドイツへの史上空前規模の「絨毯爆撃」を、爆撃機の製造工程から、多くの民間人を殺戮し廃墟となった都市の空撮が延々と続くラストまで、膨大なアーカイブ映像を駆使して描きます。人類史上最大規模といわれる大量破壊を映し出す映像の力は強烈で、ある種異様な「映像美」に溢れていると言わざるを得ない。兵器の製造工程を描くニュース映像はどこかフリッツラングの『メトロポリス』(1927公開)を想起させる、フィクショナルでレトロな未来感覚がありますし、爆弾を投下してから地上で炸裂するまでを、爆撃する側の視点で撮影したカットには思わず目を見張る「映像美」と「悲惨」が混在します。晴天の空を飛ぶ爆撃機の姿や、迎撃機との空中戦を映し出す映像の感覚は、どこか宮崎駿や円谷英二の作品に繋がる「快感」があり、彼らがいつも描こうとした戦場における「人として」の感覚も同時に蘇ります。延々と続く廃墟となった都市の映像は、遠い昔に栄えた古代都市の遺跡を空から見ているような「奇妙な感覚」に揺らぎつつ、想像を超えた破壊・殺戮の現実に、人としてほとんど反応できない絶望感が押し寄せてきます。

『破壊の自然史』©️Atoms & Void

それにしても、人類史上初の「大量破壊」を描く作品の、この上ないストーリーの簡明さと、圧倒的な「映像美」の凄みが共存していることを、どう受け取ればよいのでしょう。これこそが、ロズニツァ監督の「映画の力」そのものだと、理解すべきでしょうか。

ロズニツァ監督と同年生まれ(1964年)の、こちらもドキュメンタリーを主戦場とする映画監督ヤン・ヨンヒは、昨年、新作公開時のコメントで「『スープとイデオロギー』というタイトルには、思想や価値観が違っても一緒にご飯を食べよう、殺し合わず共に生きようという思いを込めた。一本の映画が語れる話なんてたかが知れている。それでも、一本の映画が、世界に対する理解や人同士の和解に繋がると信じたい。私の作品が多くの人々にとってポジティブな触媒になることを願っている」と語っています。

映画について話された、最もやさしく美しい言葉のひとつだと思います。

観客の内面で、なんらかの化学反応を起こし、世界や歴史に対する理解や人間同士の和解につながるポジティブな「触媒」に、映画がなり得ると考えるとき、その「映画の力」が強ければ強いほど、観客の感動は大きく、作品は記憶に残り、その作品の最も伝えたいメッセージがより多くの人に強く伝わる。ヤン・ヨンヒ監督の言葉は、そんなことを教えてくれます。『破壊の自然史』の溢れる「映像美」の力は、結果的により多くの人々に人類の過去と現在と未来の姿を考えさせる、強くポジティブな「触媒」となりうるのだと思います。

一方で『キエフ裁判』は、「追及」と「証言」という形式のダイアローグ(時にモノローグ)に終始する、ほぼ室内での「会話劇」として、まことに見事な作品です。

『キエフ裁判』©️Atoms & Void

裁判に関する膨大なアーカイブ資料から映像や音声を選び出し、サスペンスフルなドラマツルギーをもって緊密に構築された作品で、観客はその「演出」に夢中になり、圧倒的な「知的興奮」と「感動」を体験するはずです。そして、この裁判の進行を圧巻の「法廷ドラマ」「会話劇」として描きつつ、「ナチズム」と「戦争」そのものの耐え難い残虐さを徹底して糾弾します。同監督の過去作で描かれた虐殺の地「バビ・ヤール」での体験を証言する女性の長いモノローグは、まさに圧巻の「ドラマ」でしょう。

『キエフ裁判』©️Atoms & Void

裁判が終わり、判決が出て、ラストの処刑シーンが始まります。言葉で表現することが、ほとんど不可能な驚異的な「映像」を、ぜひご覧いただきたいと思います。

独ソ戦の戦勝国における、狂気と残虐が余すところなく展開し、ヤン・ヨンヒの言葉を借りれば「触媒」としての「映画の力」が迸ります。そしてその「映画の力」から、「戦争」で犠牲になる人々(とりわけ子供たち!)への、ロズニツァ監督の悲痛な想いと追悼と鎮魂の確かなメッセージがずしりと伝わってきます。

●そのざき あきお 毎日新聞大阪開発エグゼクティブ・プロデューサー

なお、冒頭の『破壊の自然史』の写真のコピーライツは ©️Atoms & Void

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