今こそ必見! ドキュメンタリー映画「日本原 牛と人の土地」 園崎明夫 

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内藤秀之さん (C)2022 Kurobeko Kikakushitsu

◎イントロダクション

父が牛飼いになって、もうすぐ50年になります。牛飼いになる前、父は医学部の学生でした。父が医者ではなく牛飼いになったのは、自衛隊とたたかうためでした。

岡山県北部の山間の町、奈義町(なぎちょう)。人口6,000人のこの町に陸上自衛隊「日本原 (にほんばら)演習場」がある。日露戦争後に旧陸軍が村々を強制買収して設置、占領軍に接収されたのち自衛隊に引き継がれ、今日に至る。奈義町は自衛隊との「共存共栄」を謳ってきた。日本原では昔から地元住民が山に入って土地を共同利用する「入会」が行なわれ、演習場内の耕作権などが防衛省から認められている。しかし、いまや場内で耕作しているのは本作の主人公・内藤秀之さん一家だけとなった。“ヒデさん”と親しまれる内藤さんは50年にわたり牛を飼い、田畑を耕してきた。彼を知る人は言う。「ヒデさんは医者にならずに婿入りして牛飼いになったんよ」。1960年代の終わり、岡山大学の医学生だったヒデさんは、なぜ牛飼いになったのか?

◎園崎明夫の映画評

この社会に生起する何事かを社会に向けて発信しメッセージを伝えるのが、一般的にドキュメンタリー映画というものでしょう。そういう意味では極めて過剰で複雑な事実の集積と多様な問題意識を内包している稀有な映像記録だと思います。

岡山県奈義町で畜産農家を営む内藤秀之さんと家族、仕事仲間や友人の方たちの日々をほぼ一年間記録したものですが、記録されている事実もそこから読み取れるメッセージも、一回観ただけではとても消化(いや咀嚼すら)しきれない、多様性、多重性を備えていて、驚くべき緻密な細部の集合、誤解を恐れずに言えば絢爛たる表現内容を備えた、稀に見る記録映画となっています。

したがって、これほど観る人の年齢や属性、関心領域、精神性によって、相貌の変わる映画、様々に考えさせる映画もないのではと思えます。

映画にしかできないことをやっている、今の日本に大切な映画ですね。

そして、そういう価値を生み出しているのは、もちろん内藤秀之さんという人物の奥深い魅力ももちろんですが、今一つは間違いなく映画監督が駆使する映画的手法の見事さ、いわば映画術のクオリティの高さと多様さであります。監督自身は「映画学校に通っていたが、自分には映画を作る才能はないとあきらめた」と書かれていますが、とんでもない。選ばれた見事なショットやつなぎの快感は本当に素晴らしいと感じますし、この映像制作手腕あってこそ、作品の重層的な素晴らしさが産まれたわけで。

ぜひ多くの方に鑑賞していただいて、内藤一家とともに、今の日本を想っていただきたいですし、監督の見事な映画術を楽しんでいただきたいと願います。

○そのざき あきお(毎日新聞大阪開発  エグゼクティブアドバイザー)

●上映情報

9/17(土)〜第七芸術劇場
10/7(金)〜京都シネマ
順次元町映画館

https://nihonbara-hidesan.com/

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