【人権を守るべきはだれだ!?③】 100年前から続く外国人差別 ドキュメンタリー映画「ワタシタチハニンゲンダ!」高賛侑監督インタビュー

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技能実習生、難民、入管など外国人差別に苦しむ彼ら彼女らが異口同音に訴えるのは、「私たちは動物ではない、人間だ」。この言葉がタイトルになったドキュメンタリー映画「ワタシタチハニンゲンダ!」。入管問題では、入管の中での暴行や暴言の映像、難民申請をして仮放免になった人たちの証言がスクリーンに映し出される。外国人に対する差別問題の全体像を描いたドキュメンタリー映画。高賛侑監督にインタビューした。

高賛侑監督

―この作品を制作した意図、目的は?

最大の目的は、<日本政府が法律や制度をつくって外国人を差別する>、これをなんとかしなければならないということです。かつて日本では在日韓国・朝鮮人に対する「ひどい差別」が充満していました。私は30年ほど前、他の国に住むコリアンと比較すれば、日本のひどさの程度がわかると考えて、中国の朝鮮族、旧ソ連の高麗人、アメリカの在米コリアンを取材しました。その体験からわかったことは、どの国でも偏見や差別は皆無とはいえないにしても、日本が際立っているということでした。それは、政府が率先して定めた法律や制度によって公的に外国人差別を行っているということです。そのため私は、世界の人権基準に比べて「異常な差別」と呼ぶようになりました。とかく在日韓国・朝鮮人や外国人の差別問題と言えば「かわいそうだ」とか同情することになりがちですが、そこで止まってしまうと、<政府が差別を作り出している>という本質を見誤る恐れがあると思います。

―映画は、1910年韓国併合から始まるが、その理由は?

外国人差別を知るには、1910年に日本が朝鮮半島を植民地化した、そこから語らざるを得ません。皇国臣民化、創氏改名などの植民地政策です。1945年の日本の敗戦後は、当時、外国人の9割以上を占めていた在日韓国・朝鮮人を主に管理する目的で外国人登録令などを作りました。その後、70年代に入って増加してきたニューカマーと呼ばれる他の外国人にも差別的な法や制度を適用し、さらに悪化してきています。在日韓国・朝鮮人からニューカマーへと連なる差別制度の原点は100年以上前の植民地政策にあります。

―100年前から続く外国人差別。それが現在、悪化している。その実態は?

在日韓国・朝鮮人に対する差別は就職差別や社会保障からの排除といったものが中心でした。それが近年、難民問題が大きくなってからは、命に関わる差別となっています。難民申請して仮放免された人たちを取材したとき、強烈なショックを受けました。「39日間ハンストした」、「餓死した人もいる」、「国に強制送還するという脅しが何度もかけられた」。中には、「国に帰ったら、死刑にされる」、「テロ集団に拷問を受ける」、「自分だけではなく家族も殺される」といった事態に直面している人たちもいました。また入管の中では、国家公務員である職員から暴行、暴言を受ける、病気が悪化しても病院に連れて行かないという事態が頻発しています。昨年3月に名古屋入管で死亡したウィシュマさんの場合は、未必の故意、そのまま放置すれば死ぬ可能性が高いのが明らかなのに、点滴もしなかった。このような生死にかかわる「恐るべき差別」が起こっているのです。

―「ひどい差別」、「異常な差別」、「恐るべき差別」…、100年前に始まった外国人差別が終わらない。なぜ?

一つの差別をする者は、必ずあらゆる口実をつけて、多くの差別を行うものです。まず、在日韓国・朝鮮人に対して差別した者は、他の外国人も差別します。日本は以前から経済は一流だが、人権問題は三流だとよく言われてきましたが、一向に改善されていません。旧態依然の意識が根付いています。そして残念なことに、政府が差別制度を作ると、多くの国民にもそのまま受け継がれるという体質があるようです。かつて共生という声が高まった時期がありました。阪神・淡路大震災以降、多文化共生の動きが市民の間で広く起こりました。しかし市民の運動は、それをくみ取って制度化しない限り定着しにくいものです。しかし、政府はやろうとしませんでした。ヘイト・スピーチについても、多くの被害が出ているにもかかわらず、政府は長い間禁止しようとしませんでした。世論に押されて2016年にようやくヘイト・スピーチ解消法を作りましたが、罰則のない理念法だったため、さほど効果が上がっていません。犯罪行為を法的に禁止しないのは、認めるようなものであり、その後もヘイト・スピーチは全国規模で拡大しています。

一方、難民問題では、日本は難民条約の精神に比べてあまりにも低いレベルにとどまっています。例えば主要国の難民認定率は30〜50%であるのに対し、日本は1%にも満たない。そもそも難民申請をするのは人権の尊重であるにもかかわらず、日本では「不法」という言い方をし、「不法就労外国人対策キャンペーン月間実施中」などといった垂れ幕を掲げたりしています。人々は「不法就労・不法滞在」と聞けば、犯罪者だと思ってしまうものですが、「不法」という言葉が国民に染みこんでいるようです。政府は改善する努力をするどころか、逆に好んで使っているみたいです。

―どうすればいいのか?

私は差別問題を考える中で、アメリカの黒人の歴史から多くを学びました。黒人は数百年にわたって激しい人種差別を受けてきました。しかし1954年、教育における黒人差別を禁ずる画期的なブラウン判決がありました。それを引き継いで、雄々しい公民権運動が始まり、ついに1964年に人種差別を禁止する公民権法ができました。ここで強調したいのは、多くの白人がこの運動に参加したことです。人権を守る闘いは第一次義的には当事者自身の努力が重要ですが、少数派の努力では限界があります。社会の多数派であるマジョリティーが共闘してこそ成果を達成できるのです。

―外国人差別が改善される動きはあるのか?

いま政府はウクライナからの「避難民」を受け入れていますが、わざわざ「避難民」と呼んで従来の難民と差別化しています。明らかに、ウクライナの「避難民」は世界基準で言えば、「難民」です。彼ら彼女らを受け入れるのは当然のことですが、従来の難民の問題を放置するのはあってはならないことです。何らかの理屈を付けて、ウクライナと他の国で線引きして、固定化される恐れがあるため、国会の動きにも目を向ける必要があります。去る5月10日、立憲民主党や共産党、れいわ新選組、社民党など野党が共同して入管に関する法案を参議院に提出しました。国際的スタンダードに追いつけるよう保護すべき人を保護する制度案を作ったと説明されており、独立性がある第三者委員会を作ることが一番の基本となっています。一方で、政府は昨年、国内外から強い批判を浴びた入管法改定案を国会に上程しながら成立を断念しましたが、基本的に同じ内容の法案を今年も出そうとしているようです。政治の場において、今年は本当に正念場だと思います。入管の中では、ウィシュマさんの死亡事件後も、被収容者が暴行されるとか、体が動けなくなった人が放置されているとかいう事例が続いています。私は現在、韓国語バージョンと英語バージョンの制作も急いでいます。国内だけでなく、世界各国でも上映運動を推進し、外国人差別を根絶しようという国内外の世論を喚起するために、この映画を役立てたいと思っていますので、主旨に賛同する方にはぜひ共に参加しましょうと呼びかけたいです。

 

ドキュメンタリー映画「ワタシタチハニンゲンダ!」は、関西では、5月28日から第七藝術劇場、6月3日から京都シネマ。愛知県では6月18日からシネマスコーレ、7月8日から刈谷日劇で公開予定。

https://kochanyu-movie.shop-pro.jp/

ウィシュマさん死亡事件裁判。6月8日、名古屋地裁で始まる。詳しくは、「入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合」のHP。

https://www.ntsiminrengo.org/

火曜日行動(2022年5月24日、大阪府庁前)

朝鮮人学校に対する差別の是正を訴える「火曜日行動」。2012年4月17日、大阪府庁前で始まり、10年が経過した。写真は今年5月24日。この日、父バングラディッシュ人、母日本人の女性が初参加した。

ぶんや・よしと
1987年MBS入社。2021年2月早期退職。
ラジオ制作部、ラジオ報道部、コンプライアンス室などに在籍。 
ラジオ報道部時代、福島原発事故発生当時、
小出裕章さんが連日出演した「たねまきジャーナル」の初代プロデューサー。
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