映画「教育と愛国」 学校に迫る「政治ホラー」 園崎明夫

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点を線に、線を面に

これまでニュース番組等で、すでに接したことはあって気に掛かりながらも、そのままやり過ごしていたテレビの断片的な情報、いわば「点」を、特定の問題意識や時間軸に沿って繋ぐことで「線」を描き、数本の「線」と「線」の交差する部分をさらに関連の取材を重ねて「面」としての広がりと深みのある映像作品を制作された、そういう大変に丁寧な力作で,「政治と教育」に関わる重要な問題にあらためて気付かされ教えられ、とても勉強になりました。多くの観客に観てもらって、それぞれの立場で、あるいは立場を離れて議論を誘発するであろう、とても価値ある映像記録だと思いました。

「メディアと愛国」にも注視を

斉加監督自身も言われているように本作には、カタルシスも正解もなく、それはつまり、まさに現在進行形のテーマであって、もし続編『教育と愛国2』を制作されるのであれば(ぜひ作っていただきたいと願いますが)、どうしても避けられないテーマは、マスメディアの関わりだと思います。
鑑賞コメントで森達也さんもいわれるように「教育とメディアは、国民の意識を形成する二大要素」であって、
「教育と政治」の問題は、もとより「教育とメディアと政治」の問題でもあります。多くの方たちのご指摘を待つまでもなく、かの日中戦争から太平洋戦争へと突き進む軍国日本の大きな推進力は、新聞による時局に沿った民意の形成でありました。今まさに日々、時々刻々伝えられる、ロシアによるウクライナ侵攻のニュースも、(NHK―BSの朝の世界のニュースを見ていると)EU諸国のニュース報道や、その中で取り上げられるロシア国営放送が伝える事実との違いは、同じ次元の世界で起きていることとはとても思えないほど違うわけで、毎朝驚くばかりです。平成から令和にかけて、現代の民意の形成に大きく寄与しているのは、新聞もさることながら、言うまでもなくテレビとネットの強大な影響力でしょう。さらに、本作にも描かれているように、メディア(というかその属するグループというか)は起きている事実をどのように理解し伝えるか、という役割に留まらず、時の内閣の歴史認識に則した教科書をつくる事業自体を推進しているという時代にあって、「政治とメディアと教育」の問題は、より重大性・複雑性を増していると言えるのでは。もとより監督もそのようなことは百も承知の上で、某出版社の社名とならんだ目玉マークのアップがあるのだと思いますが。

観客よ「自分の感受性ぐらい自分で守れ」

澤田プロデューサの言葉「政治ホラー」が、「政治・メディアホラー」にならないならないよう、この作品を見て、観客それぞれが考え、議論することがほんとうに大事なことだと思います。
突き詰めれば、どんな時代、どんな政治の時節にあってもいちばん大切なのは「自分の心で感じ、自分の頭で考える」ということでしょう。「駄目なことの一切を時代のせいにはするな わずかに光る尊厳の放棄 自分の感受性ぐらい自分で守れ ばかものよ」、茨木のり子さんの詩はいまでも教科書に載っているのでしょうか。

そのざき・あきお
毎日新聞大阪開発(株)Mエンターテインメント統括プロデューサー
5月13日から、シネ・リーブル池袋、アップリンク吉祥寺、京都シネマ
5月14日から、第七藝術劇場など
公式サイト https://www.mbs.jp/kyoiku-aikoku/
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