映画「ぼけますからよろしくお願いします ~おかえりお母さん~」    映画ヒョウロクダマ(ライター)

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お父さんは100歳ヒーロー

お父さんがいいなあ。しっかりと積み重ねるものを重ねつくして、実にいい具合に仕上がったご老体です。耳はやや遠いらしいが頭がクリアであられる。百歳にして心石に非ず、融通無碍でたおやかな人です。お母さんが入院されてからは見舞いに毎日徒歩で一時間を通い詰めておられ、こういう人に看取られて逝くのであれば、いっては何ですがお母さんもしあわせであっただろうと思わせます。

©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会

そのお母さんは、三たび違った状態で登場します。元気であった10年以上前と認知症発症直後、脳梗塞で寝たきりになった後。死後も入れれば四たびでしょうか。そのどの折も、それぞれに幸福そうな様子が必ず映されます。(骨壺も幸福に見えるでしょう)。

アルツハイマー型認知症という、本人にとっても支えるものにとっても決して楽ではない境遇のドキュメンタリーですが、映画のトーン全体が明るい。老々介護の苦労は描かれていても悲愴は映っていません。作者がご両親を被写体として映画を撮ったのは二度目ということですが、前作も恐らく同じトーンだったのだと思います。老々介護の両親を実家に置いたまま東京で働く作者の、若干の後ろめたさも反映されつつの補正された「明るさ」かも知れません。しかしそれにしても突き抜けた感じがあるんですね。これは映画の実質上の主役であるお父さんのキャラクターに負うところが大きいのではないでしょうか。それにしても98歳で筋トレを始めるという前向きさは何なのだろうか。

生きよう死によう、三者三様

三者三様のかたちで「死」に近づいた家族の物語です。

©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会

お母さんはアルツハイマー認知症と脳梗塞という「脳が壊れていく」形で。自己の崩壊と死の接近を同時に感じるというのは実に恐ろしいはずで、始終柔らかいトーンのこの映画で唯一「包丁おくれ。自分で死ぬる」というお母さんの悲痛な声が聞かれる1分程のシーンでもそれは現れています。そして最終的に彼女は脳梗塞から多臓器不全となって「死」に到達します。

©️萩庭桂太

一方その娘である監督自身は乳がん発現という形で「死」に接近してしまいます。恐らくは50代前半であろう監督にとって、がん告知はまことにリアルな「死」の脅威でしょうし、母の感じ取っている自己崩壊の果ての「死への到達」とはまた別の残酷なものとして実感されたに違いありません。(このように家族の死とともに自己の死の脅威さえ題材に取り込んでしまう監督のタフネスについても言及したいところですが、それはまた別の機会に)

最後にお父さんです。撮影時点で98歳であったこの人は、実は生物学的にも統計学的にも三人の中で最も「死に近い」はずです。その彼が、この映画の中では最も「自身の死」から遠くにおり、そればかりではなく家族二人に近づく「死」と闘い、あるいは最終的に受け入れることで、自分の存在を鮮やかに証明していることに感銘を覚えました。

「お母さんが身体不自由になって帰ってきたらどうする? 私が帰ってきて一緒に介護しようか?」「いいやお前は東京で働きゃいいよ。私が一人で面倒見る」そう当たり前のように答えるお父さんの、死神への睨みの利かせ方といったら、ほれぼれするではありませんか。「死」を近寄らせず、かと言って過剰に遠ざけもしないこの姿勢には、今後を生きる私たちも、学ぶべきものが大ではないかと考えます。

それにしてもお父さんの強さは何によるのか。そうか、このひとたちは戦争を潜り抜けてきたのだった。お父さんは実際に戦地に行っていた可能性が大きいのです。

私たちに「死神へのガンの飛ばし方」を教えてくれるお父さんたちは、この国に果たして何人生き残っているのでしょうか。厚労省のけち野郎諸君、5万程度で済むかよ。100万円出して、ついでにキョーレオピン10年分も支給しろってんだ。よろしくお願いします、と上品な頼まれ方をしているうちに何とかしないと知らないよ。

ところで私はこの映画のポスター写真のお二人の頭上に輪っかを落書きしてみました。失礼千万。しかし驚くほどキュートでした。

 

映画「ぼけますからよろしくお願いします ~おかえりお母さん~」は関西では、4月1日から、シネマート心斎橋、テアトル梅田、シネリーブル神戸、京都シネマで上映。映画の公式サイトはこちらです。

https://bokemasu.com/

 

なお、冒頭の写真のコピーライツは ©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会

 

 

 

 

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