映画『原爆資料館 語り継ぐものたち』を観るということ 園崎明夫

  • URLをコピーしました!

 

 「広島平和記念資料館」(通称・原爆資料館)は、「原子爆弾による被害の実相を伝え、ヒロシマの心である核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に寄与する」ことを目的に1955年に開館しました。被爆者の遺品やその惨状を示す写真、被爆者が書いた「原爆の絵」などを収集・展示するとともに、広島の被爆前後の歩みや世界の核拡散状況などについて紹介し、2万2千点以上にのぼる被爆関連資料を収蔵しています。

“ガレキの展示室”から始まった
提供:福島志津子 所蔵:原爆資料館

 

原爆資料館
©広島ホームテレビ

 映画『原爆資料館 語り継ぐものたち』は地元テレビ局の報道記者である斉藤俊幸氏と立川直樹氏が、自社に保存された膨大なアーカイブ映像を見直し、再構築したドキュメンタリー作品です。資料館がどのように誕生し、何を伝えようとしてきたのか、歴代館長の活動や折々の発言を中心に、その歴史が語られます。資料館誕生に並々ならぬ尽力をされた初代館長の地質学者・長岡省吾さんから現在に至る14代の館長の信念や言葉を辿りながら、その歴史と現在をスクリーンに映し出し物語ることで、映画を観る人の内面に「あの日のヒロシマ」を思い起こさせ、原爆の脅威を突きつけます。「原爆資料館」への、さらに核問題への最良の道案内であり、世界が新たな核の時代を迎えたかのような今こそ注目されるべき、原爆被害の実相へと導く役割を果たす貴重な映画作品でしょう。

©広島ホームテレビ

 立川監督は映画公開にあたって「原爆資料館は単なる資料館ではなく、世界に向けて<核兵器のない世界>を、<平和>を訴える中心地ではないかとすら思っている。核兵器廃絶なんて夢物語だと思っている人は多いと思う。しかしここに来て、実際に原爆に遭い家族・友人を失った人々の悲しみに触れ、遺品を見て話を聞いた時、人々はこんなことが二度と起きてほしくないと感じる。あの日をそのまま閉じ込めた資料館という空間に、願いと想いが根底に流れ続けている。」「近い将来、被爆者は必ずいなくなる、しかし資料館を”見てしまったものとしての義務感”で後世に伝えてくれる人は存在し続けると思う。この映画が、そんな人を1人でも増やすことにつながればと願う。」と語っています。この映画の制作意図、観客へのメッセージは、ほぼこの言葉に尽くされているのではないでしょうか。

 もしまだ原爆資料館を未見の方がおられるならば、ぜひ実際に広島の資料館に足を運んでいただきたい。そこで、被爆者の遺品や資料を見て解説を読み、自分の心で感じ、考え、可能な限りの想像力を働かせて、その記憶を自分の内面のどこかに刻印しておく、そのことが今の平和な日常を生きる私たちに、まずできることなのでしょう。「広島平和記念資料館」は、昭和20年8月6日の不条理な惨禍の記憶をもう一度呼び戻し、あの戦争の時代のあの日とたしかに繋がっている、今の私たちの日々の暮らしに、その記憶を刻印するために存在する場所に違いありません。映画を観て、あらためてそのことを痛感しました。

©広島ホームテレビ

 また被爆者の遺品の実物に出会うことは、見学者それぞれの内面に様々な、痛切な想いを呼び起こすでしょう。たとえば、焼け爛れ辛うじて原型をとどめている三輪車。爆心地から1,500m東白鳥町でそれに乗って遊んでいた3歳11か月の男の子が被爆し、その日の夜に死亡との説明があります。

©広島ホームテレビ

 また爆心地から600mの中島新町で勤労奉仕の建物疎開作業現場で被爆死した県立中学校の生徒たちの焼け焦げた衣服や真っ黒な弁当箱もあります。いずれも映画でも紹介されていましたが、そうした展示品を時間をかけて見つめていると、あの日広島で被爆し命を落とした少年少女たちが、まさにいまもそこに佇んでいるようです。また資料館近くにある原爆死没者慰霊碑の「安らかに眠って下さい 過ちは繰り返しませぬから」という碑文と、人類史上初の核戦争の被害者である彼らの死の実相に大きな隔たりを感じてしまうのは何故なのでしょうか。

 映画の後半になって、2023年広島G7サミット(主要7か国首脳会議)が開催され、核保有国のトップたちが原爆資料館を訪れたときの様子が紹介されます。資料館関係者やマスコミ各社の期待は、各国首脳が展示された遺品や写真、資料を見てどのように感じたのか、何を語ったのかにあったのですが、普段ガラス張りの資料館は白い目隠しで覆われ、館内の様子は見えず、首脳たちの感想らしきものもほとんど報道されませんでした。現地メディアの取材によれば、首脳たちは被爆時の遺品や写真や資料を展示した本館には入らず、東館に持ち込まれた十数点の資料を見ただけであったということです。12代館長の志賀賢治さんが「展示を見ることによって考えの変化が起きるのであれば、資料館の役目からしてそれは望むべきことなのに、なぜ見てくれなかったのか」と悔しさを語るシーンも出てきます。斉藤監督によれば、そもそもこの映画製作のきっかけは、このときの館長の悔しさであったと語っています。

 たしかに「原爆資料館」が目指した世界は、戦後80年経っても、未だやって来てはいません。日々世界の戦争報道に接しながら、この映画を観る人たちは、そのことをまず思い知るのでしょう。しかし資料館が果たしてきた、今もこれからも果たす役割は極めて大きいとも感じるはずです。これからこの映画を観られる、おそらく戦争体験がないであろう多くの観客の方々は、今自分にできる事は、あの言語に絶する戦争被害の実相を原爆資料館での見聞体験を通じて辿り直し、その記憶を自身の日々の暮らしの中に刻み、自分なりのやり方で他の誰かとともに語り継いでゆく努力をすることなのだと実感されるのではないでしょうか。2026年の今こそ、観られるべきドキュメンタリーです。

●総合デザイナー協会特別顧問 園崎明夫

〇2026 年 7 月 18 日(土)より東京・ポレポレ東中野、7 月 24 日(金)より広島・八丁座、イオンシネマ広島⻄風新都にて公開  関西では8月1日(土)より大阪・第七藝術劇場、神戸・元町映画館、8月28日(金)より京都シネマで公開 公式サイトは以下のURL

映画『原爆資料館 語り継ぐものた...
映画『原爆資料館 語り継ぐものたち』公式WEBサイト 累計8000万人を迎え入れた広島平和記念資料館。歴代館長が命を削って守り続けた”歴史の現場”の全容を捉えた映画『原爆資料館 語り継ぐものたち』2026年7月18日(土)より東...

なお、冒頭の写真のコピーライツは ©広島ホームテレビ

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次