心と思考を揺さぶるドキュメンタリー体験ー『遊歩 ノーボーダー』 園崎明夫

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 昨年公開された『どうすればよかったか?』(製作・動画工房ぞうしま)のプロデューサー・淺野由美子さんの初監督作。前作の監督・藤野知明さんが制作・撮影・編集を担当しています。『どうすればよかったか?』という作品について、私はこの欄で「きっと、直接に自分自身への問いかけとして観る以外に無い作品、客観的な鑑賞の仕方が出来ない作品」だと書きました。そして「(作品世界の当事者でもある)藤野監督自身の言葉と視点に心揺さぶられ考え続けることになります」とも。

C2026動画工房ぞうしま


 『遊歩 ノーボーダー』は、1956年福島生まれの安積遊歩さんの人生の軌跡を、その言葉や行動とともに辿るドキュメンタリー。生まれつき骨が弱く、幼いころから学ぶことにも困難を抱え、障がいや性別による差別を許容する社会に憤りを抱え闘ってきた、遊歩さんの人格や知性や行動哲学を、淺野監督が溢れんばかりの共感を込めて描いています。

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 そしてこの映画を観る観客は、淺野監督の視線を通して映し出される遊歩さんの自由な発想や社会の捉え方、発言や数々の闘いについて、きっと自分自身への問いかけとして受け止めることになるのではないでしょうか。彼女の生き方、言葉、世界を視る視点に心揺さぶられ考え続けることになるのではないでしょうか。つまり、ここでも「映画」と「観客」は『どうすればよかったか?』を観た時とほぼ同じような関係性を持つことになります。おそらくそれは淺野監督と藤野プロデューサーのドキュメンタリー映画制作にかかわる基本姿勢に根っこがあるのかもしれません。

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 監督ノートによれば、淺野監督が遊歩さんに「貴方のドキュメンタリーを撮らせてほしい」とお願いした時、遊歩さんは「今までテレビなどで何度も取り上げられてきたが、政治的な発言は禁止されたりカットされたり、障がい者としての役割以外認められなかった。ありのままの私を記録してほしい!」と答えられ、監督の意図と「共謀成立」して制作を開始したとのこと。「目の前にある困難も、社会の不正義もその知性とユーモアで真っ直ぐに切り拓いてきたパンクな生き様にココロ震えました!」との監督の言葉に導かれ、観客はありのままの遊歩さんと出会えることになりました。

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 それにしても、遊歩さんが40歳の時に出産し、母の体の特徴を受け継いだ長女宇宙(そら)さんの生き方や母娘関係を、私たちはどのように受け止めようとするでしょうか。遊歩さんの「競い合い、争い合い、比較する、そんなオリンピック・パラリンピックは終わりにすべき」だという主張を、いったい私たちはどのように考えるのか。この作品には、まさに観客自身が自分自身の生活実感や思考回路への問いかけとして観ることを余儀なくさせる、ありのままの、しかし長い苦闘の後に辿り着いた遊歩さんの思想や行動の記録が詰まっています。淺野監督は監督ノートの最後に「争えない体を持つからこそ”この体が平和をつくる”というのが遊歩さんの思想の現在地です。奪い合い殺し合う世界に向かわぬよう祈るばかりです」と書いています。

私たちの心と思考を揺さぶる、稀有なドキュメンタリー映画体験がここにあります。

●総合デザイナー協会 特別顧問 園崎明夫

〇『遊歩 ノーボーダー』は5月23日よりロードショー。関西では5月30日より大阪・第七藝術劇場、6月5日より京都シネマで上映。公式サイトは以下。

映画『遊歩 ノーボーダー』公式サ...
映画『遊歩 ノーボーダー』公式サイト 映画『遊歩 ノーボーダー』2026年5月23日より劇場公開
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