映画『アアルト』は、フィンランドを代表する建築家でデザイナー、アルヴァ・アアルトの生涯と作品を描くドキュメンタリー作品。
彼がデザインした数々の作品を、その人生の軌跡と時代を辿りながら、彼独自のデザイン思想の紹介も交えて描いてゆく構成で、その代表的な名建築の外観、細部のデザイン、内装、家具類などを、最新の撮影技術で映し出す映像が、まず圧倒的に美しい!アアルトが、建築デザインで重要視する「心地よさ」「開放感」をそのまま具現化したかのような素晴らしいキャメラワークは、完璧な画角、明度、移動速度など、それを見ていること自体が感動的で、20世紀初頭の「モダニズム」感覚を追体験するかのような「心地よさ」が、たしかにあります。この映画、まず第一の見どころでしょう。
二つ目の見どころは、「AALTOとその時代」に関する膨大なアーカイブ映像の発掘と整理、編集に関わるクリエイティブなチャレンジとその成果だと思います。「映像の世紀」と言われる20世紀には、我々が未だ見たこともない映像が無数に残されていて、それをいかに発掘し、分析・整理し、どんなコンセプトでいかに価値ある表現物・作品として創造するのか、現代のほとんどの映像クリエイターにとって大きな(大き過ぎる)課題になっています。(最も果敢な挑戦者であり、素晴らしい成果を生み出しているクリエイターの一人が、セルゲイ・ロズニツァ監督でしょうか)この映画は、ある意味コンセプトは明確で、その表現スタイルとして、様々なジャンルのアーカイブ映像・画像を編集して配列する「リズム」が、バックに流れる音楽とともに、とても「心地よい」軽快さと美しさを宿しています。それを体感しながら、監督の手腕・センスを存分に楽しむことができます。
さて、「アアルトAALTO」というタイトルですが、この映画に登場するアアルトは3人います。アルヴァとアイノとエリッサ。どのアアルトが不在でも、おそらくは「アアルト」の建築やデザインの業績は、今とは違っていたのでしょう。もちろん、それぞれのアアルトの人生も。そういう意味では、この映画が描いているのは、20世紀の建築やデザインの歴史とともに、3人の「アアルト」の「人生と愛と仕事」のドラマです。とりわけ最初の妻アイノとの愛情溢れる日々は、人生と仕事において決定的なものを、アルヴァに残したようです。映画は、アルヴァからアイノへの想いを伝えるラブレターで始まり、アイノとの輝く日々を懐かしむラブレターで終わります。そして、人生の半ばで逝ってしまった、アイノからの書かれなかった返信を、彼女にかわってヴィルビ・スータリ監督が心を込めて描いたのが、この映画なのかもしれません。
●映画『アアルト』 10月13日より、ヒューマントラストシネマ有楽町、UPLINK吉祥寺、シネ・リーブル梅田、伏見ミリオン座 他全国ロードショー
公式サイト
冒頭の写真は<1935年 ヴィープリの図書館(現ヴィボルグ、ロシア)> コピーライツは(C)FI 2020 – Euphoria Film
〇そのざき あきお(毎日新聞大阪開発エグゼクティブ・プロデューサー
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