生と死の境界で闘う人間群像が問いかけるー近未来日本の縮図『安楽死特区』  園崎明夫

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昨年夏に公開された衝撃作『「桐島です」』に続いて、今や社会派の巨匠ともいえる高橋伴明監督の新作が登場します。舞台は「安楽死法案」が可決され、法的要件を満たす安楽死が承認された近未来日本の特別地区。その「特区」に暮らす患者や近親者、担当する医師たちが遭遇する生と死の狭間を多彩かつきめ細かな映像展開で描き、観客の目と心を釘付けにします。どんな角度から、どのように観ても面白い。ストーリーに心惹かれ、生きることと死ぬこと、誰かを心から愛すること、様々な想いが絶え間なく頭と心をよぎる。そんな映画だと思います。「死にたい、と思うのはエゴですか? 生きていて、と望むのは愛ですか?」というキャッチコピーは、まさに本作の核心に迫っています。

©️『安楽死特区』製作委員会
©️『安楽死特区』製作委員会

高橋伴明監督は今日本で活躍する映画作家のなかでも特異な存在だと思います。1970年代後半、若松孝二らとともに「ピンク映画」(伴明作品は青春映画の傑作群!)を中心に大活躍していて、当時も今も半世紀に亘ってつねに社会の不条理と闘う、安易な正解のないドラマを描き続けていることに、私などはまず感動してしまいます。大手メジャー映画各社の力が衰退した1980年代初頭に、長谷川和彦監督(当時『青春の殺人者』と『太陽を盗んだ男』の2本で人気絶頂)の呼びかけで当時の若手映画監督たちの自由な映画作りの牙城として設立された「ディレクターズカンパニー」にも参加していて、その監督メンバー9人のなかで今もコンスタントに、個性的に活躍しているのは、高橋監督と黒沢清監督くらいでしょうか(長谷川和彦氏はその後監督作は無し)。

その言わば「闘う大御所」が『夜明けまでバス停で』(2022)『「桐島です」』(2025)などの近作でも、燃え滾るような闘いのドラマを描き続けています。まだ若く可能性に満ちていた戦後日本と半世紀を隔てた現代を見事に繋ぐ映画を、そして現実主義的で安易な正解を拒否するかのような熱いドラマを撮り続けています。そこに高橋作品に漲る映画の魅力の源泉があります。

©️『安楽死特区』製作委員会

新作『安楽死特区』も、この不条理な世界のなかで、明快な答えのあるはずもない「生」と「死」と「愛」の狭間で闘う人間群像を、きめ細やかにかつ奔放な映像表現を駆使して描いています。人として生まれ「自由に生きること」と「あえて死をえらぶこと」のあいだにどのような境界があるのか?「愛する人の死」をどう受け入れるのか?と、観客に対して静かに時に激しく問いかけます。

©️『安楽死特区』製作委員会
©️『安楽死特区』製作委員会
©️『安楽死特区』製作委員会

さらに監督とともに闘うかのごとき熱演を魅せる役者陣もまた素晴らしいです。主人公は『「桐島です」』の記憶も新しい毎熊克哉、恋人役の大西礼芳も感動的。安楽死を望む末期がん患者役の平田満はまさに名演でしょう。かつてピンク映画時代の高橋作品を彩った下元史郎や『愛の新世界』で登場した鈴木砂羽も登場カットは少ないながら凄い存在感です。

「生きること」「死ぬこと」「愛すること」が混然一体となって観るものに迫る傑作です。多くの観客のみなさんに、まさに今この時の高橋伴明映画の魅力を堪能していただきたいです。

〇総合デザイナー協会特別顧問 園崎明夫

●『安楽死特区』 1月23日(金)ロードショー 関西では1月24日(土)より大阪・第七藝術劇場、1月23日(金)よりなんばパークスシネマ、MOVIX京都、キノシネマ国際神戸など。公式サイトは次のURL。

映画『安楽死特区』公式サイト
映画『安楽死特区』公式サイト 高橋伴明監督作品。映画『安楽死特区』2026年1月23日(金)ロードショー

なお、冒頭の写真のコピーライツは©️『安楽死特区』製作委員会

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