
イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフの汚職疑惑から強権政治に至る実態を描くドキュメンタリー。
2019年11月、首相在任中のベンヤミン・ネタニヤフは詐欺、背任、贈収賄の容疑で刑事起訴されます。2016年ごろから本人、家族、側近や友人など関係者数十人が汚職捜査の取り調べを受け、その極秘の尋問映像が本作品の制作チームにリークされ、それを緻密に編集したドキュメンタリー映画が完成。ネタニヤフが自身の有罪回避のために、ガザとの紛争においても国内の極右勢力と結託し、その様々な強権的政治手法が戦乱を継続し、イスラエルの民主主義を危機にさらす姿が緊迫感を持って描き出されます。日々メディアでガザの惨状が報道される今こそ、まさに観られるべき重要な作品だと思います。イスラエル本国では上映禁止。アメリカでも劇場公開はされていません。


映画では警察の尋問映像からネタニヤフの汚職疑惑の構造を具体的に明らかにし、さらにパレスチナ武装組織ハマスがイスラエル領内を攻撃した2023年10月7日以来のガザ・イスラエル紛争が、何故に停戦に至らないのかについても、一つの明解な視点を提供しています。
作品の趣旨は、まず序盤にオープニングタイトル『The Bibi Files』(原題・Bibiはネタニヤフの愛称)の前後で、イスラエルの著名な調査報道ジャーナリストや国内諜報機関シンベトの元長官らネタニヤフに批判的な主要登場人物たちの言葉で明らかにされます。曰く「今のイスラエルでは法が軽視され、首相の汚職裁判の行方が国家の意思決定を左右する」「10月7日の大惨事のあと、戦争も権力維持の道具になった」「戦争と情勢不安でネタニヤフ首相は生き延び、終わらない戦争が彼の利益になる」。そして製作総指揮のアレックス・ギブニーはインタビューで「この映画は単なる政治腐敗の話ではなく、首相が戦争を政治利用し、国内極右勢力との連立を維持するためにパレスチナ自治政府を弱体化させ、ハマスと関与し資金供与してきたという主張も含まれています」とすら語っています。



もちろんアレクシス・ブルーム監督も言うように「この映画はイスラエルとパレスチナの中東紛争全体を描こうとするものではなく、あくまでネタニヤフ首相の人物像とその影響を描こうとするもの」ですが、現代の戦争がどのようなメカニズムで起こり、継続してしまうのかについての極めて重要で明解な視点を提供しています。まさに今観られるべき、国を超えた普遍性を持ったドキュメンタリー映画の傑作である所以です。
作品を通じて観客に最も伝えたいことは?という問いに、二人はこう答えています。アレクシス・ブルーム(監督)「政治における『誠実さ』の重要性です。道徳的に腐敗した人物が権力を持つと何が起きるのか、その影響を知って欲しいと思いました。」アレックス・ギブニー(製作総指揮)「小さな腐敗の兆候を軽視しないこと。そして、真実を軽んじて民族的自尊心に訴える人間に警戒すること。真実はその煙幕の向こう側にあるのです。」
彼らと同時代を生きている観客として、必見のドキュメンタリー作品だと思います。
●総合デザイナー協会特別顧問 園崎明夫
なお、冒頭の写真のコピーライツは©2024 BNU PRODUCTIONS LLC ALL RIGHTS RESERVED.
○『ネタニヤフ調書 汚職と戦争』は11月8日より全国順次公開。関西では、11月15日(土)より大阪・シアターセブン、12月12日(金)より京都シネマ、11月29日(土)より神戸・元町映画館、11月28日(金)より尼崎・MOVIXあまがさき、11月8日(土)より奈良・ユナイテッドシネマ橿原で公開。公式サイトは以下のURL


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