映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』―天才アーティストから「私たちそれぞれの時代」へのメッセージとして   園崎明夫

  • URLをコピーしました!
©2024「トノバン」製作委員会

1970年頃以降の音楽史、サブカルチャー史に興味のある人には、ぜひ見ていただきたいドキュメンタリー。そして自分が何歳ごろに「加藤和彦」という存在に出会ったかで、この映画の面白さは様々で、そこも楽しみでしょう。私の場合。小学生から中学生になる年に「ザ・フォーク・クルセダーズ」と衝撃的に出会い、1年間で解散してしまいまいましたけど、「帰ってきたヨッパライ」「イムジン河」「悲しくてやりきれない」「青年は荒野をめざす」などなど、その楽曲のインパクトは強烈で、地方都市の少年に及ぼした影響は生涯に渉るほどのものがありました。

©2024「トノバン」製作委員会

70年代前半「サディスティック・ミカ・バンド」の頃には高校生になっていて、どうもその最先端センスにイマイチついていけず、しかしその後、洋楽に目覚めロキシー・ミュージックやトーキング・ヘッズ絶頂期のアルバムに心奪われつつ、同時に引き寄せられるように1980年代初頭、安井かずみとの傑作シリーズ「パパ・ヘミングウェイ」「うたかたのオペラ」「ベル・エキセントリック」さらに「あの頃、マリー・ローランサン」に夢中(とくに『うたかたのオペラ』最高!)になって、感動的に加藤和彦に出会い直した私には、この映画でのミュージシャンや音楽関係者からの加藤和彦とその音楽についての言葉の数々や、アーカイブ映像の懐かしくも新鮮な感じも楽しく、ラストの『あの素晴らしい愛をもう一度』のリスペクトバージョンには涙を抑えられませんでした。

©「トノバン」製作委員会

『トノバン 音楽家加藤和彦とその時代』というタイトルですが、私の実感としては、加藤和彦はむしろ常に「時代を超え続けていた人」で、個人的にタイトル付けるなら、『トノバン 天才加藤和彦の時代を超える音楽と人生』。ともあれ、彼の音楽人生の全体像を捉えるというようなことは、よほどの音楽ファンでもなかなか容易にはできないことで、しかし、もっともっと語られてしかるべき音楽家であることは間違いなく、このドキュメンタリー映画はその先鞭をつけたという意味でも、素晴しい価値があると思います。

そして、もっと若い世代の人たちが加藤和彦の世界と出会い、自分の大切な何かを発見してゆくイントロダクションとして最高の作品ではないでしょうか。私ですら、半世紀も前のミカ・バンドのサウンドとパフォーマンスの凄さに、あらためて感動しました!なぜあの頃ファンになれなかったのか後悔しつつ。長年のファンとして感じるのは、加藤和彦という人は、世界大戦後20世紀後半の(束の間の)「愛と自由」の時代を、自分の才能のままに自由自在に生きた人だったのだなということです。その音楽と人生から、それぞれ別の時代を生きる私たちが汲み取れるものも、きっととても豊かなものがあるでしょう。

まずは、ぜひ映画館に足を運び、それをきっかけに彼の様々な名曲と出会っていただきたいなと思います。

〇 5月31日(金)より大阪ステーションシティシネマ、京都シネマ、T O H Oシネマズ西宮O Sほか全国公開

音楽ドキュメンタリー映画『トノバ...
音楽ドキュメンタリー映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』 不世出の音楽家・加藤和彦の軌跡を追った初の音楽ドキュメンタリー映画

〇そのざき あきお(毎日新聞大阪開発 エグゼクティブ・プロデューサー)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次