ディズニー・ピクサーの最新アニメーション作品『マイ・エレメント』の内覧試写を観せていただきました。
まず、文句なしに面白い!
いろんな意味で、これまで観たことないアニメーション表現領域に突入していて、ほとんど類を見ない面白さをもった作品だと思います。極上の最先端CGアートであり、心揺さぶる「娯楽映画」であり、かつ現代社会に向けての力強いメッセージ性を持ったマスメディア(想定される観客数を考えれば)でもあります。CGアニメの黎明期から数々のヒット作を制作し、ルーカス、ジョブズ、ディズニーという赫々たるパートナーと歴史を作ってきたPIXARの底力を見せた大傑作でしょう。
原題は『Elemental』で日本タイトルが『マイ・エレメント』。
この日本題名を付けた人はすごいです!作品テーマの根幹に関わる重要性があります。「elemental」は、名詞としては、古代の自然科学に言う「火・水・土・風」という、「世界を構成する四大基本元素」とのこと。つまりこの作品が外形的に描いているものを、客観的にシンプルに表現したタイトルと言えるでしょう。いわば普通のタイトル。しかし「マイ・エレメント」となると、普通ではありません。「マイ・エレメント=私の元素」、ということは「自分自身の基本的な構成要素」、「自分という存在を形作っているもの」、意訳すれば「私とは何者なのか」というような意味で、それは、この映画の核心的なテーマを的確にかつ深く表現していると思えます。「マイ・エレメント」という言葉そのものが意味するのは、現実の世界では、個々人の性格や能力とともに、人種・民族・宗教・国籍など様々でしょう。人間の社会が歴史を通じて苦悩してきた課題の根源かもしれません。
この作品は、それぞれの「エレメント」のままに、「自分自身」のままに、「違うエレメント」とともに生きることの価値や喜びを、本当にシンプルに優しく、しかしこれ以上ないほど力強く描きます。もちろん1本の映画が社会の課題を解決することはできませんが、この映画を観ていると、「娯楽映画」に可能な精一杯のアプローチがここにあると実感します。比類のない世界観とストーリーに極めて今日的なメッセージを込めて、子供にも楽しめる楽しさと美しさをもったエンターテインメント作品として創造された、PIXAR制作スタッフの見事な達成でしょう。人でない生き物や物を人に見立てる、いわゆる「擬人化」というのは、アニメーション表現の基本だと思いますが、ここまでくると限界を超えて「文学」的、「哲学」的、「神話」的、「象徴」的で、アニメの極北に挑むようなイマジネーションの凄みが圧倒的です。
それもまた、とても楽しく優しく面白いエンターテインメントに昇華されていて、また感動。なにしろエレメントたちの動きや表情やコミュニケーション、予期せぬ事態に遭遇した時のリアクション、「エレメント・シティ」の景観や構造物の変化、カメラワークも絶妙で、全編に亘ってワンカットごとに、驚きやワクワク感があり、予期せぬ素晴らしいCG表現が連続します。たとえば「ルパン三世」や「ガンダム」が走るカットや飛ぶカットの流れはほぼ事前に想像できても、この作品の「火」や「水」たちが、走り、叫び、泣き、告白するとき、いったいどんな映像表現が現れるのかは、まったく想像がつかない。そして次々にスクリーンに誕生する、奇跡のようなカットの連続が、これこそが映画を観る喜びだと感じさせてくれます。
ともあれ難しい話は抜きにしても、ぜひ劇場で遭遇していただきたい、素晴らしい「エンターテインメント・アート」です!
◇8月4日(金)全国ロードショー
「マイ・エレメント」公式サイト
◇そのざき あきお 毎日新聞大阪開発 エグゼクティブ・プロデューサー
なお、冒頭の画像のコピーライツは©2023 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
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