食べてみたくなった 映画「チョコレートな人々」 田畑元治

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©東海テレビ

映画館で初めてチョコレートを買って味わってしまった――。

愛知県豊橋市の商店街の店から始まった「久遠チョコレート」の日々の「もがき」を追ったドキュメンタリー「チョコレートな人々」(102分、鈴木祐司監督、東海テレビ製作)を観て、そのチョコレートを食べてみたくなったからだった。

映画を観たのは京都市の京都シネマ。関西では大阪市の第七芸術劇場などで公開されている。作品は、チョコレート専門店久遠チョコの代表でもある夏目浩次さんが「障がい者の平均月給1万円て、どうしてそんなに少ないの。最低賃金は払いたい」という素直な挑戦を追いかける。現在久遠チョコは、世界各地のカカオと産地にこだわったフレーバーを巧みに組み合わせたうえ、植物性油脂を一切に使わないチョコレートQUON「テリーヌ」シリーズを中心に製品化。全国 40 店舗、57 拠店(2022 年)を展開、デパートの催事の常連になるほどの人気チョコレートとなっている。570 人の従業員の約6割は心や身体に障がいがあり、ほかに子育て中の独り親や年老いた親たちを介護している人、セクシュアルマイノリティー、引きこもりなどの悩みを抱えた人たちと多様な人たちが一緒に働いている。

そんな夏目さんの「もがき」の始まりは 2003 年、商店街の一角に障がい者と共に小さなパン屋を旗揚げしたことに始まる。当たり前ながらパン屋は早朝から仕込みが始まり、作ったパンはその日に売り切ることが求められる。「利幅が少ない」と言われるパン屋の行き詰りそうな日々も、この作品は淡々と映していく。苦悩する日々にトップショコラティエ・野口和男さんと出会う。「温めれば、何度だって作り直せる」。「トップショコラティエなら、いろんなことが一人でできないといけない。でも欲張らないで一人ひとりがひとつの行程のプロになれば美味しいチョコレートは作れる」。夏目さんは、そんな助言を現実化するように 2014 年、チョコレート工房を本格的にスタート。手先の器用な者、根気が続く者……。一人ひとりのできること、そして個性に合わせた工程を任せていく。そんな働きぶりも映像は丹念に追いかける。「軽い障がい者ばかり……」という声には、チョコレートに混ぜ込んだり、飾り付けたりする木の実や乾燥果実、茶葉などを砕く「パウダーラボ」を開設。外注作業を内製化した重い障がい者を中心とした働く場を始めてしまう。作業中に足を踏み鳴らして音を立てる者がいれば、階下への対応として防音マットを敷いたり、平屋の工房を新たに作ったり、さらには茶葉を粉末にする作業を支障なくこなすための機械を特注したり、と次々と働く障がい者に合わせた職場環境を整えていく……。

語りつくせぬ壁と壁を乗り越えようと試みる「もがき」の数々。時間を作ってでも観て欲しい 2023 年の映画の一本目でした。京都シネマでは一月七日、夏目浩次代表のほか、鈴木祐司監督、阿武野勝彦プロデューサーが舞台あいさつに立たれた。20年間にわたってニュースや店舗紹介などの報道取材を通じて、ある時は休日も返上して淡々と夏目さんの仕事ぶりを追いかけた鈴木監督。そんな久遠チョコレートの活動の映画化を促した阿武野プロデューサー。可能にした東海テレビには感謝にたえません。そして夏目さんが話された「ガラスの心ですから、いろんな凸凹があり、布団から出たくないことも多々ありました」「人々が胸を張って、自信を持って生きていく。そんな社会を子や孫たちに残したい」「人は優しい生き物だからそんな社会が絶対できると思います。そんな社会に向かって、もがいてもがいてもがいていきたい」。

©東海テレビ

夏目さんの歩みを観て、そのうえ舞台挨拶を聴いたら、実際にチョコレートの味を確かめたくなりますよね。私はQUON「テリーヌ」のイチゴ味の「ベリーベリー」、ピスタチオ風味のあふれた「ピスタチオプラリネ」、ピーカンナッツの食感豊かな「ベトナム 56%ペカン」の三種類を食べてみました。個性ある素材を活かしたまま風味豊かにうまくまとめてくれているチョコレートでした。久遠チョコで働く人たちの姿が目に浮かぶようでした。映画もチョコもお勧めの逸品です。

後列、右から鈴木祐司監督、久遠チョコレートの夏目浩次さん、阿武野勝彦プロデューサー、前列、右から配給の東風、木下繁貴さん、宣伝担当の松井寛子さん、田畑元治さん 京都シネマにて

凸 たばた もとはる 元朝日新聞記者

凹 「チョコレートな人々」上映情報

https://tokaidoc.com/choco/

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