報告:ドキュメンタリー映画「教育と愛国」トークイベント 望月衣塑子さん(東京新聞記者)、平井美津子さん(中学校教諭)、久保敬さん(元小学校校長)を迎えて 文箭祥人(編集担当)

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昨年12月16日、大阪・十三の第七藝術劇場でドキュメンタリー映画「教育と愛国」上映後、トークイベントが行われた。その模様を報告します。

冒頭、第七芸術劇場の小坂誠さんが壇上に。

「本作、5月14日から当館で上映が始まり、気が付けば12月、超ロングラン上映となり、本日が最終日となりました。たくさんの方にお集まりいただき、ありがとうございます。最終日ということで、豪華トークイベントを行いたいと思います」

目次

若い人に届けるには、TikTok!

東京新聞の望月衣塑子記者と斉加尚代監督が登壇。

望月衣塑子さん(右)、斉加尚代監督

望月衣塑子記者

2004年、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑をスクープし、自民党と医療業界の利権構造を暴く。東京地裁・高裁での裁判を担当、その後、経済、社会部記者として、防衛省の武器輸出、軍学共同を取材。17年2月から「森友学園」と「加計学園」を巡る問題を追及するため、菅義偉官房長官(当時)の記者会見に出席。20年から日本学術会議問題、21年からは入管で収容中に死亡したスリランカ人女性問題や、入管法、外国人問題、コロナ禍での医療、雇用問題なども取材している。

著書に『武器輸出 と日本企業』(角川新書)、「なぜ、日本のジャーナリズムは崩壊したのか」(講談社+α新書)、「嫌われるジャーナリスト」(SB新書)、「自壊するメディア」(講談社+α新書)。2017年に、平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞を受賞。2019年度、「税を追う」取材チームでJCJ大賞受賞。

望月さん

「今日、政府は安保3文書を閣議決定しました。そして、政府は次の通常国会で日本学術会議改正法案を出すと言っています。学問の自由・学問の独立性とは何か、日本学術会議の役割は何か、これらを根底から覆すような改正法案を出そうとしています。この映画を通して、なぜ、このような状態になってしまったのか、非常によくわかったと思います」

斉加監督

「3月に東京でこの映画の試写会を行った時、望月さんが観てくださって、「全国の人たちに届けた方がいいと思う」と話して、あちこちで宣伝してくださいました。私自身、7か月も上映が続くとは思っていませんでした。実は、教育と政治の関係にモヤモヤして、関心を持っている人がたくさんいると気付かされました。政治は悪くなる方向に進んでいて、危機感でいっぱいです」

多くの大人たちが悩んでいる、若い人にどうやって社会問題を伝えるかという課題。望月さんの試みから話が始まる。

斉加監督

「今日、控室に望月さんが入るなり、「今、若い人に届けるには、ツイッターじゃだめなのよ、TikTokなのよ。斉加さん、TikTokで1分、しゃべって!」と言われました。望月さんは「ビューティープラスというアプリがついているから大丈夫!」。急なことでうろたえたんです」

望月さん

「ネット事情に詳しいジャーナリストが、若い人はツイッターやフェイスブックでの情報発信はあまり見ないと言います。中高生に聞くと、大の大人が右だの左だのとポジショントークでいがみ合っているのを見たくないと話します。伝えたいニュースがあればTikTokで、入口を明るく元気にポジティブにハキハキとかっこうをつけて、その後に言いたい政治や社会の問題をちらっと伝えるというやり方がいいとアドバイスを受けました。会場に若い人が想像以上に来ているのにびっくりしていますが、もっと若い人に知らせようと、今、TikTokをやりたいと思っています」

斉加監督

「ビューティープラスの効果でお肌がつやつやに。20歳くらいサバを読んだ感じに仕上がっています(笑)」

望月さん

「TikTokで楽しくというのは何となくわかります。先輩のジャーナリストは講演の最後に「ダメなんだよ」とこぼします。これだと、若い人たちはくじけてしまう。これからの社会をつくっていくのは若い人たちです。教育の無償化におよそ3兆円と言われていますが、その財源がないと、昨年、日本政府は国会答弁していますが、防衛費43兆円の話になると、埋蔵金がこれだけあるとか、剰余金があるとか、特別復興税を回すとか。誰が納得するんだと思います。こうした乱暴な議論と、映画「教育と愛国」が描く、政府が自分たちにいいように教科書をつくりかえようという動きは重なっていると感じました」

政府は閣議決定によって教科書を書き変える

二人のトークは閣議決定にすすむ。2021年、「従軍慰安婦」と「強制連行」の教科書の用語について菅義偉内閣は閣議決定をし、「従軍慰安婦」は「慰安婦」とするのが適切、朝鮮半島からの「強制連行」とひとくくりにする表現は適切でなく、「徴用」を用いるとした。

斉加監督

「閣議決定という政治の数の論理で、教科書の中身が書き変えられるんだ、という危ない社会へすすんでいます」

望月さん

「閣議決定で教科書の記述を変える、これにはびっくりしました」

この閣議決定により、すでに検定合格した教科書の書き変えが起こる。

斉加監督

「教科書検定合格後、訂正申請という手続きがあります。これは、教科書出版社が誤字・脱字を見つけた場合、主体的に訂正するというものです。これを文科省がある意味で政治的に利用して、訂正してくださいよと臭わすんです。臭わすと、教科書の世界は圧力が満ちている世界ですから、忖度が起こります。また、特定の政治勢力から攻撃を受けて、教科書の採択が減ると、経営が揺らぎかねない事態にすすむ恐れもある。教科書出版会社はこうしたネガティブな思考になってしまっています」

望月さん

「これは事実上の強制と全く変わらないのでは。教科書会社が自主的に表現することに政府が介入するようで、これは憲法違反ではないのかという気がします」

憲法21条2 「検閲は、これをしてはならない」 

斉加監督

「教科書検定制度は憲法違反ではないか、歴史学者の家永三郎さんがいわゆる家永教科書訴訟で1965年から32年かけて、言い続けました。最高裁は「検閲に当たらない、憲法違反ではない」とし、「ただし一部問題があった」と指摘しました。だから、文科省は原則としては、検閲ではありませんから、こう書きなさいという行政指示は出しません。あくまで、ここの表記にちょっと不備があって誤解される恐れがあるという意見を言います。映画でパン屋さんが和菓子屋さんに変わるという場面がありますが、文科省の説明はこうです。「伝統と文化の尊重、国と郷土を愛する態度に照らして、パン屋さんが登場する読み物は扱いが不適切と意見を付けただけで、和菓子屋さんに変えろとは言っていない。変えたのは、あくまで教科書出版会社で、その責任は教科書出版会社にある」。あくまで教科書出版社の自主的判断なんだと言うのです」

望月衣塑子さん

望月さん

「官僚は同じようなことをたくさんやります。思い出したのは加計学園。菅さんの最側近の和泉洋人さん。和泉さんは加計学園に決めるという話をなんとしてもやらなくてはいけなかった。しかし当時、加計学園が出した申請書と別に出されたもの双方をみると、全然、加計学園が通らない申請書でした。その結果、和泉さんが手取り足取り、こうやって書くんだとすべてやって、それを丸写ししたような申請書が出てくる。その後、加計学園が採択されていくんですが、この過程を含めて、和泉さんは「私はやっていない」と言ったんです」

望月さんの話が続く。

「官僚にはよく指示がくるらしいです。麻生さんとか二階さんとか菅さん、安倍さん、この4人に関しては、絶対是非もの案件と言われています。経産省のあるキャリア官僚に教えてもらいましたが、この4人本人ではなく、事務所のスタッフが省の局長級に電話をして、「今度、うちの先生がお世話になっている〇〇業者の△△さんが、この補助金事業に応募するからくれぐれもよろしく」と言ってくるんです。それが、課長や課長補佐に落ちてくる。そうすると、加計学園の時のように、なんとかして通さないといけない、直接介入はできないけれど、手取り足取り、もう少しプレゼンをこういうふうにやりましょうと、なんとか底上げをして、なんとか通す。こういうことが起こっている。官僚は権力がある政治家に対しては忖度する、事実上やらされているんです。特に安倍、菅政権の時は顕著にひどかったという話を聞きました」

こうした状況は今、どうなっているのか。望月さんの話がさらに続く。

「今だと、萩生田さん、甘利さん。統一教会とべたべたな人たちなんですが、政治力があると言われています。直接本人ではなく、事務所が局長級に一本電話を入れて、それが下に落ちてくる。全然、国民のために働いていないのがよくわかります」

斉加監督

「官僚はできませんと言えないのでしょうか」

望月さん

「非常に政治力のある国会議員が指示を出してきたら、その指示に逆らうと、予算で嫌がらせを受けるんです」

官邸の意向が放送現場に下りてくる NHKの内情

メディアと政権との関係に話が移る。

望月さん

「私が信頼しているNHKの「クローズアップ現代」のスタッフは、安倍政権が放送してほしくない内容を放送した後、地方局に飛ばされました。安倍さんがいた時、「クロ現」のスタッフは安保法制や憲法9条問題を番組企画書のテーマに絶対書くなと言われていたそうです。この2つのテーマの企画書が提出された時点で、どこのディレクターで、どういう人物で、どういう素性かが、知らないうちに、NHKの上層部や政治部にまわるらしいです。だから、「お前のためにもそういう企画書を上げるな」。こういう話をたくさん、聞きました」

望月さんが続ける。

「安倍元首相の襲撃事件以降、NHKは統一教会問題にかなり食い込んだり、安倍元首相の国葬を批判的に報じたり、変わってきたなあと思っていたんです、ところがどっこい。NHK会長人事で、元NHKプロデューサーの永田浩三さんや市民のみなさんが、NHKは政府から独立したメディアでなくてはならない、国営放送ではなく公共放送なんだと、元文科省事務次官の前川喜平さんをNHK会長にしようと動きます。4万通を超える署名が集まりました。NHK内部からも、30人の現役プロデューサーやディレクター、記者が内情を訴えました。内情はこうです。NHK政治部が、こんな内容を放送すると萩生田さんや二階さん、世耕さんが怒るから、ああしろこうしろと現場に何回も言ってくる、報道や番組制作の現場もしょうがないぁという感じで内容を変えてしまう、これが普通になっていて、みんなの常識になっているようです。まだ、政治部の記者を通じて、与党政治家や官邸の意向が伝わってきて、現場が報道したいことが放送できない、もしくは変えられてしまう、そういうことが今もって、あるんだということがよくわかります」

4万人を超える人が観たこの映画、中にはこういう人たちも。

斉加監督

「横浜での上映後に「文科省の職員です」と一人の女性がわざわざ、身分証を見せながら、あいさつにきました。この女性は「この映画で描かれていることに共感しました。良かったです」と感想を述べました。内閣府の職員も観に来ました。「批判的思考が弱まっているなかで非常に良かった」と感想をもらいました」

望月さん

「良心的な官僚たちの心を揺さぶる映画でもあったと思います。教育が無茶苦茶にされると考えているのでしょう」

学問と教育における、危険な政府との一体化

トークは日本学術会議問題へ。

望月さん

「岸田首相は日本学術会議法を変えようとしています。太平洋戦争時、研究者はひたすら軍事研究をさせられ戦争に加担してしまった、その反省から政府から独立した学者の団体をつくろうという考えで、1949年に日本学術会議ができました。今、新たに政府が出そうとしている改正法案は、政府と目的を共有して一緒にやろうじゃないかという内容です。政府と一体化させようという方向です」

斉加監督

「政府と一体化、これが危ない」

斉加尚代監督

斉加監督が続ける。

「大阪維新の会が誕生して、政治主導の教育改革をやろうという時、維新の会は‘グローバル社会に対応できる人材育成’を打ち出しました。政治と教育が一体となって、優れた人材を育成するんだと掲げました。これが危ない。当時の教育委員会の教育委員たちは、「一つの方向に子どもたちを追いやるのは本当に危ない。教育の目標・目的を一つに絞ってはいけない。教育の本質は、違いがある子どもたち一人一人の能力を育てる、一人一人の子どもたちの成長を支える、ことであって、何かゴールを定めてはいけない」と繰り返し訴えました。しかし、その後、文科省が教育委員会制度を見直したり、教科書検定基準を変えたり、様々な法改正をして、教育振興基本計画という、首長と教育委員会がともに練った計画に沿って、それぞれの学校が目標を立てるということになっています。ある意味、学校が首長や教育委員会の言いなりになる仕組みがもう出来上がってしまっています」

望月さん

「ロボット化したような子どもたちになってしまう」

斉加監督

「そうです」

望月さん

「扱いやすい子どもをつくろうと」

斉加監督

「ある教科書出版会社の幹部に聞いた話ですが、「文科省から、スタンダードな授業ができる道徳の教科書をつくってくださいと繰り返し言われました」。どんな先生であっても、同じ授業ができるように、道徳の教科書と指導書をつくってくれということです。道徳の授業は小学校では2018年から、中学校では2019年から始まっています。教える道徳の徳目は20前後ありますが、その中でもっとも重要視されているのが、集団や社会との関わりに関することで、今の社会にどう適応すべきか、ということです。もっとわかりやすくいうと、従順な子どもになりましょう、そういう教育が上から落ちてくる、ということです」

望月さん

「第1次安倍政権の2006年、教育基本法が改正された以降、国の指導者にとって従順な子どもたちをいかにつくるか、それが進んでいる」

斉加監督

「そうです」

望月さん

「統一教会も後押ししていましたけど、じわじわ進んでしまっている」

2006年、第1次安倍内閣時、教育基本法改定。「愛国心」が戦後初めて盛り込まれる。旧法第10条を改変。「不当な支配に服することなく」は残るも「国民全体に対して直接に責任を負って」は削除され、「法律の定めるところにより(教育を行う)」の文言が入る。

「愛国心」は政権維持のための道具

斉加監督

「この映画に出てきますが、安倍元首相が「日本人というアイデンティティーを備えた国民をつくる」と述べ、育鵬社の代表執筆者で東京大学名誉教授の伊藤隆さんが「ちゃんとした日本人をつくる」と言っています。安倍さんたち政権与党の政治家たちが言う「日本人」は、決して歯向かわない、従順な日本人だと解釈できると思います」

望月さん

「自民党衆院議員の杉田水脈さんやジャーナリストの櫻井よしこさんが出ているユーチューブの映像が映画に出ていますが、杉田さんや櫻井さんは「反日学者」と言い、繰り返し反日をキーワードとして使っています。統一教会との関係で言えば、安倍さんはどうなのか?と二人に聞きたい。統一教会は北朝鮮との関係が濃く、かなりの額のお金を北朝鮮に送り支援したりしていて、安倍さんは拉致被害者奪還のために北朝鮮許さずと言っていた。その安倍さんが統一教会に支援されていた、これは反日行動です。どうして統一教会を利用してきたのか。とにかく選挙です。統一教会は10万票程度の票しか持っていないと言われていますが、朝から晩まで電話かけをするとか非常に選挙運動に熱心なんです」

斉加監督

「安倍さんらは、教育を政治の道具にするため「愛国心」と繰り返し言っていましたが、純粋に国を愛していたわけではなく、自分たちの政権維持のために、すべてはあったんだということがわかったと思います」

望月さん

「そうですね」

望月さんが一点、言いたいことがあると。

「経済安保推進法が成立しました。この法律の中で、先端技術支援制度がつくられました。これまでは、防衛省だけが国立大学や民間の研究者に対して、軍民共用技術をやろうと手を挙げてくださいと言っていましたが、全然盛り上がらなかったんです。日本学術会議は、1950年に「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明を出して、2017年にこの声明を踏襲しました。今、政府は何をやっているかというと、日本学術会議法の改正と重なっていくんですが、文科省と経産省が防衛省とは別に、年間トータルで5000億円の補助金を出すと、その代わり、特定の先端技術支援、それも国が掲げる先端技術支援について手を挙げてくださいと。ではこの先端技術は何か。法案が通った後、出てきましたが、ほとんど防衛省がやりたがっている安全保障関連と同じなんです」

どういうことが起ころうとしているのか。

「大学、民間の研究者は誰も軍事研究をやりたくないのですが、お金がついてくる研究に飛びついていかないといけない。5年契約とか期限が定められた契約をしている研究者が増えていて、お金があるところにいかないといけなくなっています。科学の分野だけでなく、軍事に使える心理学もあり、文系理系問わず、日本学術会議に入っている研究者も含めて、安全保障、これから向かっていく戦争のための研究をするために、総動員体制させられようとしています。実は立憲民主党も賛成しています。これを是非、みなさんに知ってほしいと思います」

斉加監督

「教育の自由がせばめられていると同時に、学問の自由も、政治的攻撃と予算、お金によって誘導させられている、せばめられている、とても問題だと思います」

二人の先生が壇上へ

そして、斉加監督が「大阪の教育の現場で、教育の自由を守ろうとする先生が今日、二人来てくださっています。壇上に来ていただければ」。そして、平井美津子さんと久保敬さんが登壇。会場から大きな拍手が起こる。

平井美津子さんは、大阪府内の公立中学校に勤務。生徒たちに歴史を教える社会科の先生。

久保敬さんは、大阪市立の小学校の元校長先生。

平井さん、久保さんは映画に登場している。

右から 望月衣塑子さん、久保敬さん、平井美津子さん、斉加尚代監督

平井さん

「久保先生は学校で授業をしている場面が映っています。一方、私は斉加監督からインタビューの依頼を受けた時、取材を受ける場所は学校だと言いましたが、私が学校でインタビューに応えるシーンはありません。真夏の暑い日、公園で取材を受け、その場面が映画に出てきます。この映画を最初に観た時、「なんなんやこれ!」と正直、思いました。慰安婦や日本の加害のことを教えている人間だというレッテルが完全に張られてしまって、当時市長だった吉村さんが、記者会見でコメントしていますけど、「私って、慰安婦を語っていなくても、もうこういう人間やと思われているだなぁ」と改めて感じて、メラメラと闘志が沸いてきました」

斉加監督

「何度も、教育委員会や勤務校に学校内で取材をしたいとお願いしました。生徒がいない放課後でもいいからと、依頼しました。放課後であっても教室の貸し出しはできないと断られました」

平井さんは、授業で慰安婦問題を取り上げる。2018年、共同通信の取材を受け、それが地方紙に掲載。その記事を読んだ当時の大阪市長だった吉村洋文氏が記事に「従軍慰安婦」の表現があったことを根拠にツイッターで、「史実に反する軍による強制連行」を教えていると批判。平井さんは授業で「従軍慰安婦」という言葉を使っていなかった。吉村氏は記者会見で「自分の政治的な活動の思いの中でのことを授業として、もしやっているんであれば、それは控えるべきだと思います」と述べた。

平井さん

「市教委からも府教委からも、取り調べのような事情聴取を受けました。私が許可を得ずに取材を受けたことを聞くんじゃなくて、私が今まで、どんな授業をしてきたのか、どんな本を書いたのか、を質問してきました。「私が問われるべきことはそれじゃない」と頑強に答えませんでした。最終的に府教委は私の授業に問題はないと結論を出しましたが、そういう意味では、府教委の中にも良心があったのかなぁと思います。府教委の中にいる人たちは教育に携わってきた人たちで、大阪維新の会にいろいろな形で傷めつけられたり、押さえつけられたりする中でも、教育の自主性をなんとか守らなければと考えているのかなあと私は思っています」

斉加監督

「平井先生は両論併記に気を配り、学習指導要領に沿った授業をされています。そうであっても、特定の政治勢力がインターネットで攻撃しようという時には、デマや事実と異なる情報を織り交ぜて、反日の教師だというふうに洗脳していく、駆り立てていく、それが今、政治の側の常とう手段になっていることが深刻な問題だと思います」

危険な「道徳」の授業 子どもたちに価値を押し付ける教科書

映画の冒頭部分、当時校長だった久保さんが小学校の教室で、道徳の授業を行っている場面がある。

久保敬さん

久保さん

「道徳の授業は<考える道徳・議論する道徳>が目標・目的とされています。小学校の授業は、一話完結の物語を読むんですが、考える・議論するが目的ですから、物語自体は結論を言っていません。しかし、どう読んでも答えはこれしかないような内容なんです。若い先生はまじめだから、教科書会社の指導書通りに教えます。私は独自教材を使ってもいいですよと言っていますし、学習指導要領の解説書にもそう書いてあります。でも、忙しいこともあって、なかなか独自教材を使っていません。一方で、教育委員会から教科書通りにやりなさいというプレッシャーがすごく強いんです。教科書通りにやるととんでもないことになるから、私が授業をした際、まず教科書通りにやって、それから別のストーリーを子どもたちに投げかけます。そうすると、子どもたちの価値観がパーンと変わるんですよ。価値観は教えられるものではありません」

久保さんが続ける。

「映画に出てくる、靴を隠した児童の物語は、靴を隠した子が別の子とケンカしたから靴を隠したんです。だから、なぜケンカをしたのかを考えたり、その周りにいた子どもたちが二人のケンカをなんとかしようと思ってくれたらいいのですが、ただ、すっと読めば、靴を隠した子が悪い、その子があかんやろ、先生に言いつける、それが正義なんだと子どもたちに思わせています。先生たちには、教科書を自分なりに解釈をしないと、ひどいことになると言っています」

望月さん

「教科書をつくっている側は、そういう意図でつくっているんですか」

久保さん

「たぶん、そうだと思います。道徳の教科書は、物語が掲載されて、その後に質問が2つある、という構成です。だから、先生は価値を押し付けていないと表向きはカモフラージュされています。だけど、教科書通りにやれば、教科書が意図することが子どもたちにすとーんと落ちるなあと思います」

斉加監督

「<考える道徳、議論する道徳>と掲げられているけれど、結果として、価値の押し付け、子どもたちの内面に正しい答えを無理に押し込むような道徳の授業に陥ってしまう恐れがあります。かなり危険です」

久保さん

「もう本当にかなり危険やと思います」

望月さんの小学生の娘さんが使っている道徳教科書に「かぼちゃのつる」という物語が載っている。

望月さん

「かぼちゃがぐんぐん育って、隣の畑につるが伸びたら、この畑が‘私の場所だからあかんよ’と言うんだけど、かぼちゃは‘もっと育ちたい’とどんどん、つるが伸びるんですけど、途中の道路まで伸びて、そこにトラックが走ってきて、つるが切られる、かぼちゃは‘痛いよ、痛いよ’と泣いている、こういう物語ですが、ここから何を学ぶか、びっくりです」

久保さん

「ベテランの先生が、何を教えているんだ、と怒っています。戦争で食べるものがない時に、みんながかぼちゃを植えて、それで飢えをしのぎました。それが、かぼちゃの良さやのに、つるを伸ばすことをとんでもない悪いことにして、自業自得と教える」

望月さん

「とんでもない教材だと思います」

久保さん

「かぼちゃの顔はイラストで、悪そうに描かれています」

望月さん

「先生もこんな教材だと子どもたちにのびのび、どんどん育つんだよと教えにくい」

世界で起こっている教育の問題 ブルガリアの先生「人間としての教育を忘れている」

2021年5月、久保さんは松井一郎大阪市長へ「提言書 豊かな学校文化を取り戻し、学び合う学校にするために」を提出。久保さんは「政治主導の教育のあり方そのものが問題なのだという怒りの噴出がこの「提言書」でした」という。さらにこうも言う。「いつか政治や時代の流れが変わるはず、それまでの辛抱だと思考停止し、黙ってきた自分への怒りだったのだと思います」。久保さんの提言書は世界に広がっている。

久保さん

「教育を研究する大阪公立大学の辻野けんま准教授が、僕の提言書を海外に紹介してくれたんです。これまでネットで4回ほど、合わせて10数か国の人と交流しました」

そして、ブルガリアの先生の発言を紹介する。

「人間としての教育がどんどん忘れられて、何かの歯車として役に立つ人を都合よく育てる、そういうことにどんどん、世界中がシフトしているのでないか。子ども一人一人が人間としてどう育っていくか、それが本来の教育ではないか、世界中がそこから離れていっているのではないか」

斉加監督

「今、日本国内だけではなく、世界で教育を問い直しているのでないか。ロシアのウクライナ侵略もそうですが、戦争が近づいているがゆえに、世界で教育を問い直すことがなされているのではないか」

斉加監督

「平井先生の教え子が映画の感想を寄せてくれました。平井さんから紹介していただけますか」

平井さん

「私が攻撃されている時、彼は中学2年生でした。高校3年生になって、たまたま、「教育と愛国」の予告編をみて、「美津子が出ている!」と驚いて、映画を観に来てくれました。彼は「自分は国を誇れる人間ではなくて、世界にただ一人の自分として、自分自身が誇れるようになりたい」と感想を送ってくれました。この映画から何か感じるものがあったのかなあと思います」

その後、斉加監督のリクエストでこの教え子と会うことになった。                                                                                         

平井さん

「斉加さんが教え子に、「平井先生はどんな先生だった?」と聞くんです、教え子は「ええかげんな先生やった」と(会場、大笑い)。なんちゅうこと言うねん!」

トークイベントは予定の1時間を過ぎた。会場の若い男性がぜひ、平井先生に聞きたいことがあると手をあげる。

「教科書の話を聞いていると、昔の日本の軍国主義まではいかないにしても、ただ一つの政党の考えがすすんでしまって、そして世界がグルーバル化する中、個人の可能性をつぶしてしまうことにつながらないかと思います」

平井さん

「ヨーロッパでは、ドイツとポーランドが共通の教科書をつくる、そういう努力をしています。日本でも民間では、日本と中国、韓国で共通教科書をつくろうという取り組みをしてきました。グローバル化した現代、近隣諸国同士が理解するため、そういった取り組みはとても必要だと思います」

戦争体験者が語る「戦争は教室から始まる」

望月さんからも質問が投げられる。

「これからの5年間でじわじわと、政府は様々な閣議決定を繰り返して、教育現場に対して子どもたちに国防意識を教えなさいと言ってくると思います。政府は、戦える国になるため子どもたちをつくり変えようとするのではないかと危惧します。そうなったら、先生たちはどうするのか。先生たちは子どもたちを守るため、子どもたちの命を守るために何ができるのか」

久保さん

「先生たちは今でも、ちょっとしたことでも、ものが言えない状況があるんです。これを言えるようにしないといけないと思います。僕らが意見を表明するという勇気を持たないと、それこそ、望月さんが言うようなことには抗えなくなってしまうと思います」

平井美津子さん

平井さん

「まだ、声を上げられるじゃないですか。声を上げられるのに上げないって、もったいないと思うんですよ。私は子どもたちに「かしこくなってもらいたいねん」と言います。かしこいとはどういうことか。子どもたちにこう言います。「かしこいというのは、勉強ができるということだけじゃないよ。やっぱり、人と手をつなぎ合えること、人が苦しんだり虐げられている時に、それに対して支える言葉を掛けられる、誰かが自分の幸せのために誰かがもし、踏み台になっているとしたら、その幸せはないよ。誰も虐げられない、誰も踏み台にならへん、みんなが納得できる幸せをつくるっていうのは、あんたらの仕事や、あんたらがその社会をつくらなあかん。まず、先生ら大人がつくっていくよ、つくっていく努力するけど、後ろついてきてくれるか、あんたら、子どものうちは、ついてきてくれたらいいねんけど、成人したら一緒に手をつないで、一緒にやっていける仲間になって」。卒業式にこう子どもたちに声を掛けています」

久保さん

「小学校では、まず、みんなが安心で安全で、少々失敗しても、ためらわずに何かチャレンジできるとか、おもしろいなぁ、楽しいなぁ、夢中になれる、自分が思ったいろいろなことが言える、そんな小学校をつくることが大事。中学校に進んだら、先生の言葉を受け止めて、考える、そうすると、行動していける子どもたちになっていくんじゃないかと思います」

斉加監督

「千葉で映画を観てくれた高校生が、「平和な社会はどんな社会ですか?」と聞いてきました。私は、「偽りなく私を生きて、私に誠実でいられる社会。唯一人のかけがえのない自分という存在を大事に思えて、他者も尊重できる社会が平和な社会ではないですか」と返しました。教育は、戦争を遠ざけることもできるし、戦争を呼び寄せることもできる。戦争を体験した98歳になる先生が「教室から戦争は始まる」と自身の体験を振り返って語られました。久保先生や平井先生たちが踏んばっておられる限り、大丈夫だと私は思います。みなさん、是非、教科書について、いろいろなところで語り合っていただきたいと思います。ありがとうございました」(会場、大きな拍手)

トークイベント終了して、記念撮影 宣伝担当の松井寛子さん(左)、その隣が澤田隆三プロデューサー

〇「教育と愛国」公式サイト 「自主上映会のご案内」「自主上映会・映画祭 上映情報」もこのサイトに掲載されています。

https://www.mbs.jp/kyoiku-aikoku/

●ネットメディア「月刊風まかせ」 大阪市長への「提言書」は黙っていた自分への怒り−「平凡な校長」の卒業論文/久保敬(小学校校長)

http://kazemakase.jp/2021/10/osaka-education/

〇ぶんや・よしと  1987年MBS入社。2021年2月早期退職。 ラジオ制作部、ラジオ報道部、コンプライアンス室などに在籍。 福島原発事故発生当時、 小出裕章さんが連日出演した「たねまきジャーナル」の初代プロデューサー

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