映画を観る愉しさのすべてがここにー傑作『ある男』 園崎明夫

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© 2022 「ある男」製作委員会

 11月18日(金)公開の松竹映画『ある男』は、必見の傑作です!
「映画」を観る愉しさのすべてがここにあります! ぜひ映画館で鑑賞されることをお勧めします。

「芥川賞作家・平野啓一郎による、人間存在の根源を描き読売文学賞を受賞したベストセラー小説が、ついに映画化。
 監督を務めるのは、国内外で高い評価を得る鬼才・石川慶。妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝をはじめ、日本を代表する豪華俳優陣が顔を揃えた。日本映画史に残る「愛」と「過去」をめぐる珠玉のヒューマンミステリー誕生」(松竹映画宣伝資料より)

 今回お伝えしたいことは、実はこれですべてです。もし興味を持っていただいて「もうちょっと作品のことを知りたい」という方には、私の感想もすこし書いておきます。

 以下は、先月某日、松竹の試写室で『ある男』を観せていただいた直後、同作品宣伝担当者の方に私が送ったメールです。

 観たばかりですが、おそらく「完璧」な映画だといっていいような気がしています。素晴らしいです。たぶん今年屈指の傑作ではないでしょうか。
 まず物語が抜群に面白い。まだ原作小説読んでませんが、絶対面白いはずです。すぐ読みます。
 さらに向井康介氏の脚本が圧倒的に素晴らしい!(こちらも傑作『マイ・ブロークン・マリコ』も彼の脚本!) 2時間という枠での、ストーリーの語り方が、それこそ完璧。
 監督の隅々まで行き届いた演出と、それに応える俳優陣の迫真の演技!
 少なくとも私が知る限り、妻夫木聡も安藤サクラも窪田正孝も、キャリア最上の演技でしょう。
 また、その人物や風景を捉える撮影、加えてセットや美術のクオリティの高さも特筆ものです。キャメラワークの緩急や遠近のリズムが抜群で、こんなにキャメラの動きが心地よい映画もそんなにないと思います。
 あれやこれや「映画」というアートを構成するすべての要素が混然一体となって、観る人の心を掴んで離さない。
 そういう映画を、やっぱり「完璧」と言っていいのだと思います。

 さらに三日後のメール。

『ある男』が「完璧」な映画に思えたので、原作小説読みました。
 現代の日本に生きる様々な登場人物が織りなす人間模様を、その行動と心理の微細な部分まで巧みに描き、圧倒的なストーリーテリングで読者の心を掴んで離さない、素晴らしい小説でした。
 作者が最近あちこちで発言している「分人主義」の具体化ともいえる展開が全編に横溢し、松本清張の社会派推理小説的色合いも濃厚で、ほんとに面白い!
 それで映画『ある男』ですが、やっぱり傑作です。
 原作読んだ方が、より映画の素晴らしさが際立つというか、文学作品の映画化としても相当なものだと感心しました。
 映画観た人には、平野啓一郎の『ある男』読むように是非お勧めしたいです。併せて、より素晴らしい時間が過ごせます。

  映画鑑賞直後の私の感想はこういう感じです。そして、今も変わりません。

© 2022 「ある男」製作委員会

  石川監督はインタビューで「平野さんが純文学でずっとやってきた題材と、ここ数年で平野さんから出てきた語り口としてのエンタメ性が僕の中で完璧に融合した。こんな面白い小説は自分が映画化したいと思いました。」と話しています。「この映画を他の監督に撮られたら悔しいと思いました」とも。
 そして監督の意思は見事に結実し、素晴らしい原作から、素晴らしい映画が誕生しました。
 小説の文体は、絶妙のキャメラワークに転換され、人間描写は俳優の最上の演技でさらに命を吹き込まれる。
 映画のストーリーは小説によってより精密・堅牢に強化され、映画の上映時間から自由になった読者は、途中で思う存分思索が可能に。
 たしかに、原作小説と映画化作品とは別のものというのが、一般的には通念のようで、作品のテーマや表現の在りよう、作品世界の印象など、それぞれの表現ジャンルによって違って当たり前なのでしょう。いままでも、これからも。
 しかし今回『ある男』の場合は、言い過ぎかもとは承知のうえで、「原作小説とその映画化作品でひとつの表現形態」になったとすら言いたい気がします。ふたつの表現様式の相関関係が、より高次の傑作を生みだしたと。

© 2022 「ある男」製作委員会

 私たちはとても多様で複雑で、不合理で不公平な、つねに問題を孕んだ世界に生きていて、しかし、政治、経済、国際等々どのようなカテゴリーで生じる社会問題も、それは必ず、個人の人生に影響することで顕在化します。
 というか、個人の意思に関わらずその人生を左右する事象を社会問題と呼ぶと言ってもいいのかもしれません。
『ある男』は、「X」という「個人の人生」を、彼を取り巻く人々の群像とともに、迫真の表現で描き出します。
そして、その「X」の姿を追いつつ、「自分の人生」とは何かと問わざるを得ない一人の弁護士の姿をも描き、それを観る観客もまた「自分の人生」の後ろ姿を追い求める。まるで、ルネ・マグリットの『複製禁止』のように。

 すでに原作小説を読まれた方は、すぐに映画をご覧いただき、未読の方は、映画鑑賞後、小説を読まれることをお勧めいたします。私見ですが、より効果が高いと考えられます。

11 月 18 日(金) 大阪ステーションシティシネマほか 全国ロードショー

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