映画「スープとイデオロギー」 「思想」越えるスープのぬくもり 藤井満

  • URLをコピーしました!

©PLACE TO BE, Yang Yonghi

在日朝鮮人2世、ヤン・ヨンヒ監督がみずからの家族を何年もかけて撮ったドキュメンタリー。
父母は朝鮮総連の活動家で、家には金日成の写真を飾り、3人の兄は「帰国事業」で北朝鮮にわたった。
ヨンヒ自身は自称アナキスト。韓国政府も北朝鮮政府にも不信感をもっている。兄3人を北に送ったことをうらんでいる。
母は、北にいる息子や孫たちに、自らは借金しながら仕送りをつづける。そんな母に反発し、大阪・猪飼野の実家を訪ねるのは気が重かった。
父母は「首領様」をたたえる歌をうたい、革命の歌に涙する。ヨンヒが北朝鮮の悪口を言うことを許さず、「アメリカ人と日本人とは結婚は許さん」と言う。
このように書くと、「北」を盲信する一家と思えてしまうのだけど、家での父は亡くなる直前まで明るくゆかいで冗談好き。母は、丸ごとの鶏のなかに青森産のニンニクと朝鮮人参、ナツメなどを詰めて5時間煮つめる参鶏湯が得意なやさしい人だ。


ヨンヒは、12歳年下の日本人男性と結婚する。家につれていくと母は参鶏湯をつくって歓待してくれる。
父母の経歴を追うなかで、1948年の「済州島四・三事件」を知る。島民数万人が軍や警察に虐殺されていた。母の当時の婚約者も、おじも殺されていた。18歳の母は道端に折り重なる死体を見ながら逃げまどい、日本への密航船に乗った。その時の韓国政府への恨みが朝鮮総連の活動に突き進む背景だった。
母は国籍が「北」だから済州島に長らく帰れなかった。文在寅政権になって訪問できることになったが、すでに認知症が深まり、亡夫や北朝鮮にいる息子と同居していると思いこみ、済州島での記憶もあやふやになっていた。でもそれは、虐殺というつらい記憶を忘れることでもあり救いでもある。

©PLACE TO BE, Yang Yonghi

スープ(=日常)を大切にする生き方は、イデオロギーによって引き裂かれた人々をもつなぐことができる。
一見イデオロギーでガチガチでも、家にはあたたかいスープがある。
この映画は、北朝鮮にもウクライナにもロシアにも、そんな「スープ」をはぐくむ家族があることに気づかせてくれる。

藤井満
1990〜2020年まで朝日新聞記者。
著書に『僕のコーチはがんの妻』
『北陸の海辺自転車紀行』
『能登の里人ものがたり』(2015年、アットワークス)
『石鎚を守った男』(2006年、創風社出版)など。
●公開日程
関西では、シネマート心斎橋、第七藝術劇場、京都シネマ
東京ではユーロスペース、ポレポレ東中野。
ほか全国の映画館で順次公開!
https://soupandideology.jp/
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次