ドンと市民が排除した横浜カジノ 横浜市民の体験記    古澤敏文(プランナー)

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公約を破り「誘致」に動いた林市長

これは横浜カジノ問題に関心をもった一横浜市民の体験談であります。

ことのあらまし

横浜IR誘致反対運動は、野党を中心とした政治集団、次に一般市民が立ち上げたもの、それに藤木前会長の横浜港運協会、の大きく3つの動きがあった。待機児童0で湧いた林前横浜市長も、第2期目末期には政策に魅力を欠いていた。そんな折り、政府よりカジノ誘致の話がもたらされた。

市長はカジノが何たるかを調査する時間もないまま「御意向」を鵜呑みにした。ところが誘致を表明してから、逆に支持が急速に低下する。市長にとっても予想外のことだったろう。そこで横浜で選挙を戦う上で支援が不可欠である、「ハマのドン」と呼ばれる横浜港運協会の藤木幸夫会長の元を訪ねた。会長はカジノ誘致撤回を支援する条件とし市長はそれを承諾した。そして2017年辛くも再選された。

ところが暫くして市長は「誘致は白紙としたが撤回の意ではない」として選挙公約を翻した。この造反に藤木会長は怒り心頭だったことは後の言動からも推測出来る。会長は2019年5月にハーバーリゾート協会(YHR)を立ち上げ、カジノを含まない山下埠頭開発プランを自主的に作り始めた。一方横浜市は2019年8月にカジノ誘致に正式に名乗りを挙げた。

カジノ先進地の実態知り「反対」に転じたドン

一方、反対運動の急先鋒である藤木会長は自民党の最古参で横浜の経済界を牽引する存在である。市が誘致に乗り出す以前から、カジノによる地域活性を構想していた時期もあった。その事業計画を練る過程で、世界のカジノ事情に詳しい静岡大学の鳥畑与一教授に助言を求めたところ、アメリカのカジノ事業は衰退期に差し掛かっており経営破綻企業も出ていた。また韓国ではカジノを誘致した江原ランドは地域が疲弊し壊滅的となっている惨状を知ることとなった。藤木会長は横浜市民に悪影響を及ぼすと直感し、カジノ事業を基盤とした振興策を躊躇なく捨てた。

2019年5月19日(藤木会長とのやりとり)

5月中旬、藤木会長のIR誘致反対報道を頻繁に見かけるようになり、会長へ激励の手紙を送った。翌週、会長からお礼の手紙が届き、末尾に「貴殿の意見をお聞かせ願いたい」と添えてあった。そこでサブ事業としての位置づけで自分が常々必要性を感じていた、日本の近代芸能文化遺産の収蔵と演劇舞台が組める小劇場を備えた「ヨコハマ芸能文化博物館」設立の企画書を作り送った。すると秘書から面談の打診があったが、生憎どうしても都合が付かず叶わなかった。このことでも藤木会長の人柄は推して知るべしだろう。横浜カジノ説明

市民も政党もこぞって「反対」集会 「賛成」の声は極一部

2019年9月6日〜12月6日(地域集会へ出向く)

元テレビキャスターで現在参議院議員の真山勇一氏の「オーシャンの会のシンポジュウム」に参加。横浜カジノ写真

小池百合子や丸川珠代、それに黒岩祐治らキャスターから政治家に転身して豹変する輩が多いなか、真山氏の政策目線は常に庶民レベルで醇朴な姿勢が気に入っていた。9月6日の回には一般市民として行動を起こした小林ふみこ氏と、藤木会長の事業方針転換のきっかけを作った鳥畑与一氏がゲストだった。この会には三回参加し、港運協会常務理事の水上裕之氏がゲスト参加された際に名刺交換し、その後の会見立ち会いが実現した。

また、この時期から市民や政党系の集会が軒並み発生。自分が参加しただけでも9月14日、立憲民主党集会「横浜市へのカジノ誘致反対シンポジュウム」。

9月15日、社民党系集会「横浜にカジノはいらない、女性たちよ手をつなごう」。

yokohamacasino5-5

12月6日、西区民の会主催「カジノ誘致の是非は市民が決める!」がある。

誘致賛成の集会は元町商店街など一部の地域で行われたのみで、自民党が主催する一般人を巻き込んだ集会は目に止まらなかった。

横浜市:根拠薄弱な「誘致で税収増」 

YHR:「EXILEコンサート」「動くガンダムプロジェクト」で実証

ここで、<カジノ誘致側の市と反対派のYHRが使用している資料>を比較してみる。

市が示した資料は、2035年までに600億円の税収不足に陥り、それに伴う市民サービスの低下が予見されるとした。そこで毎年1兆円規模の資金が動くカジノを取り込むことで1400億円の税収増が可能だとした。また観光客100人当たりの宿泊者割合が1.01まで低下したことをあげ、改善の波及効果が見込めるとした。しかし、その数字は市の公式データ1.7から恣意的な改ざんされていたことが発覚。市側は算出方法を変えたと弁明したが、変更の理由が示されず、返って市民の不信をかう。このように市側の資料は数字も信頼性を欠き、収益モデルの大半が具体性を欠き、曖昧だった。

一方、YHRの資料は海外のMICE※の実状を研究したうえで、複数の事業参加企業と直接やり取りを行っていた。さらに企業から提供された収益モデルは客観的指標によって精査されていた。また、今後の発展が有望視される事業であっても健康や心身を害する恐れのある案件は即却下された。更にYHRは集客の検証事業として、「EXILE埠頭コンサート」や「動くガンダムプロジェクト」を実施した。そして、YHRは参加希望企業ごとに収益を緻密に算出し、外部評価も経て、600億円の税収増が見込めるとした。YHRはカジノに頼らないこの事業計画書を市側に提出したが市は受け取りを拒否し続けた。

私が一番懸念しているのは行政資料では契約内容が非公開であることだ。水道のコンセッション方式のように、例えば採算がとれず企業が撤退した場合の損金や施設を市が買い取る契約となっていたら最悪だ。行政はリスク予見に目をつぶることも多くこの点が一番気がかりだった。

市の説明会に募る不信 選挙を視野にリコール運動展開

2019年12月9日(市長による市民説明会)

全18回行われる市長による市民説明会はどこも予約満席となっていた。その第2回目が神奈川公会堂で行われた。

横浜カジノ反対集会

入り口では政治団体や市民系団体が入り交じって反対運動を展開。市長や幹部が誘致メリットを一方的に語るだけで、市民の質問にはまともに応えなかったらしい。説明の既成事実を積み上げる魂胆がみえみえだった。

一方、場外では発信力のある世代の姿が散見出来た。1968年の佐世保エンタープライズ寄港阻止運動では、政府は映像から反対運動に市民が連携していないことに着目した。市は学生さえ排除さえ出来れば沈静化すると考えた。

横浜で起きてようとしていたのはこの真逆だった。この後、反対運動は屋内から山下公園などファミリー層が多く滞留する屋外で展開するようになる。説明会は回を重ねるごとに市民の不信感と反感が増し、市長リコール署名運動に拍車をかける。リコールが成立する可能性は極めて低かったが、誘致反対側は選挙戦を有利にする位置づけとしていた。

この年の11月か12月だったか、日付は定かでないが横浜港運協会で関係者向けの小規模報告会が行われた。その席で藤木会長は、「今、会長室に珍客が訪ねて来ている」、「江田君(立憲)だよ」 場内から「わぉ〜」の声が上がる。歓声を聞きつけた江田氏はドア外から顔を覗かせた。

選挙後に江田氏がTVで「藤木会長がまさか会ってくれるとは思ってなかった」語っていたが、自分が居合わせた時が横浜の市政やその後の選挙戦が変わる正にその節目だったのだ。

「市民のためにならぬことは命を投げうって阻止」賀詞交換会でドンが市長を牽制

2020年1月6日(横浜港運協会賀詞交換会)

ロイヤルホール横浜で所属企業400社の幹部、政治家を交え1000名規模で行われた。

2020賀詞交換会

集まった人やメディアは横浜市長を前に会長がどんな発言をするか注目していた。年始の挨拶として会長は「本日は新年を祝う会なので、IRに関しての発言は控える」と述べる一方で、「横浜市民のためにならぬ事に関しては命を投げうってでも阻止する」と面前の市長を牽制した。一方、林市長は「横浜の発展のために全力を尽くす」と述べた。

賀詞交換会2020

演壇の真ん前に立ち塞がりカメラマンから顰蹙をかっていた黒岩知事は「県としては市の方針を支持します」と、自分の感を信じて疑わない挨拶を行った。

賀詞交換会2020

会長の傍らで自民党系議員は挨拶の機会を伺っていた。だが会長はまともに取り合うことはなかった。その後11月13日に、同ホールで「YHR拡大委員会」が行われている。

横浜カジノ

2020年1月14日 (国会野党連合によるYHRヒアリング)

横浜港運協会内で国会野党連合「カジノ問題追求本部」によるヒアリングが行われた。目的はカジノ誘致反対運動を牽引してきたYHRと野党連合との情報の摺り合わせだった。どってことない会議風景にも見えるが、この様は自民党本部で野党連合が集会を行うようなもの。在京テレビ局も中継車で駆けつけた甲斐があった。藤木会長の挨拶こそ無かったが、この日が横浜市長選を決定づけたといっても過言では無い。

横浜カジノ反対

2021年3月23日(大人げない市議会)

カジノ誘致推進費採決日に市議会議場に赴く。自民党系議員がIRバラ色の話をすると満場の拍手。それに対し立憲の太田正孝氏(後に市長選に立候補)は、改ざんを認めたデータがいまだに使用されていることを指摘。すると自民党席からヤジが沸き起こり非難の応酬合戦となる。市政を揺るがす一大問題にも関わらず、小学生学級会以下の会議風景には呆れてしまう。かくして、まともな議論も経ず3億6千万円のカジノ誘致推進予算は承認された。この時期、誘致反対運動のネットワークが完成しつつあった。それまで独自の動きをしていたが、各団体の活動予定や情報共有が進み、効率的な運動が可能となっていた。

「菅総理は横浜の人ではない」「よそ者は干渉するな!」政界バッサリ

2021年4月19日(YHR第一回全体集会)

横浜カジノ

冒頭、藤木会長は「この年寄りの思いのため、会員ならび関係者に多大な苦労と御迷惑をおかけしていることを深くお詫び申し上げます」から始まり「供出して頂いた1億2000万円全てをカジノ誘致反対活動に使用する許可も頂き感謝に尽きません。」と礼を述べた。

YHRとしての山下埠頭開発案のお披露目に続き、上階では藤木会長の記者会見が行われた。会長は会見室に入るなり、「こちらから取材の願いをしておきながら上段は無いだろ」と、ひな壇の席を平場に据えるよう変更を指示した。

横浜カジノ

会長の周りには常に明るい雰囲気があり会長の人懐っこさに惹かれる記者も多い。しかしながら、横浜の問題は全国から注目されるため、なかにはワイドショーネタの愚問をする記者も混じる。三原じゅん子出馬のことを聞かれた会長は「それ誰?」と応え、三原の説明を受けたあとは話にもならないと指で退けた。それでも食い下がる記者に対し「大手報道機関なんだから大手らしい質問をしなさい」と笑顔で諭した。この日も、「カジノが横浜に誘致されるような事態となれば私は切腹する」と「あの人(菅義偉総理)は横浜の人ではないんです」「横浜のことは横浜の者がやる。よそ者は余計な干渉はするな!」など炸裂。毎度のことであるが、政界事情を明け透けに語る会長に圧倒される。だが、この風通しの良さが会長の最大の武器だとも言える。

一方、日常的にカジノ問題を報じているローカル新聞の記者が地域に直結する質問を差し控えている気がした。そこで私は「横浜市民としてお聞き致しますが、山下埠頭開発に関して市民の声を直接聴く機会は設けられますか?」と記者が拾えるよう質問した。会長は一瞬「お前は誰だ?」ときょとんとされたが、「事態が落ち着けばその機会もあると思う」と返答してくれた。

泥沼市長選、衆院選での菅・前首相の末路を暗示?

2021年7月16日(泥沼の最終決戦)

突如、市長選に自民党の小此木八郎氏が立候補に名乗りを挙げた。しかもカジノ誘致撤回を掲げて。菅首相の動向に注目が集まるなか、首相は小此木氏支持を表明する。菅総理と小此木八郎

これには菅の傀儡だった市長も語気を高めて非難した。林市長が立候補を辞退すれば国会議員への勇退もあったろうが出馬でそれも吹っ飛んだ。情勢分析出来ない市長の資質をまた露呈させた。今回の衆議院選神奈川2区では藤木会長が立憲議員を支持し、菅前首相自身も同様の路を辿る公算は高い。

神奈川2区衆議院選挙2021選挙戦その後

山中竹春新市長によりカジノ誘致は即時撤回され,準備組織も年内解散となった。そして、「山下埠頭の開発は市民の方々の意見を聞きながら進める」とのこと。だが、肝心なのはこの「市民が一体誰なのか?」ということである。

横浜は最近、ハンマーヘッド周辺が整備された。しかし、一般市民が楽しめる空間ではなく集客にも苦労している。山下埠頭の開発においては、豪華施設や商業施設だけでなく、ファミリー層や横浜の一般市民が出かけられるようひと工夫して頂きたい。

最後に、私は特定政党の支持はありません。民に対して誠実で良き社会作りを真摯に取り組んでくれればバッチの色も形も気にしません。ところが、最近の議員の資質は目に余るものがあります。安全に直接関わる製品の製造工程で、不良品が検知されれば、故意に見過ごすことはありません。直ぐに原因究明もなされるでしょう。この規範に沿って、無能な議員や不正に関わった議員が排除されることを私は切に願うものであります。

※MICEとは、企業等の会議、企業等の行う報奨・研修旅行、国際機関・団体、学会等が行う国際会議、展示会・見本市、イベントの英語の頭文字を使った造語。

追記:菅前総理は先の衆院選で再選された。だが“選ばれた”には程遠く“残った”という言い方が妥当かも知れない。ほか証拠隠匿により起訴を免れたり、問題発言を繰り返す議員も易々と勝利している。日本の政治はまるで腎不全状態で、老廃物が居座れば当然新陳代謝は進まない。これでは国際情勢や貧困問題など拡大かつ複雑化していく政治課題に対処できるはずがない。今回の選挙で土下座する議員をみて暗い気持ちになったのは自分だけだったろうか?

 

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コメント

コメント一覧 (1件)

  • 地元市民の力が政治を変えることができることを明らかにしたことの意義は大きい。
    横浜で生まれ育った者として、林市長の変わり身、菅さんの横浜愛の感じられない政治姿勢には疑問を通り越して怒りを覚えていたので、カジノ反対の署名も進んでした。
    ただ、今回の選挙での菅さんの圧勝に、変わらないもの、変えられないものの力に忸怩たる思いをもった。
    市政、国政にNOを突きつけ、変えた横浜市民の行動を一市民の目から綴り残されたことに感謝します。

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