阪神・淡路大震災から30年―傑作『港に灯がともる』と作品の核心を担う女優・富田望生  園崎明夫

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神戸に誕生した映画制作会社「ミナトスタジオ」の第一回作品として、阪神・淡路大震災から30年を期に制作・公開。2020年にNHKで放映されたテレビドラマ『心の傷を癒すということ』とその劇場版映画の公開・上映活動が、今回の作品の出発点となっていて、その映像作品のもとになっているのが、神戸の精神科医・安克昌氏の同名の著作で、そこに記録された、震災直後の安医師たちの診療活動と様々な思考や想い。そしてドラマ『心の傷を癒すということ』の制作チームが再結集して創り上げた新作は、安達もじり監督はじめ制作スタッフの、「作品を通じて自分たちの大切な想いを伝えたい」という意志が、力強く明確にスクリーンに結実した見事な映画になりました。

©Minato Studio 2025
©Minato Studio 2025

震災の翌月に神戸市長田の在日コリアン家庭に生まれた灯(あかり)が、家族や仕事仲間とともに懸命に生きる日々を描き、まさに全編に「映画の力」が漲っていると感じます。「みんなもろい 街も、家族も、 わたしの心も」という惹句も、ご自身在日コリアン2世で家族の問題にも悩まれた安克昌さんの想いが宿った「作品の核心」を伝えて秀逸だと思います。劇場で『港に灯がともる』をご覧になった後、できれば安克昌さんの著作『心の傷を癒すということ』を読み、同名のドラマか映画を観ていただくのがお薦めでしょうか。

何はともあれ、この新作映画は安達もじり監督のシナリオと演出が、ずば抜けて素晴らしい!あの大震災をテーマにした劇映画として、心揺さぶられる傑作だと思いました。灯の家族をはじめ、彼女と出会う、あの震災を体験した人物群が、とても丁寧に的確に描かれています。

©Minato Studio 2025
©Minato Studio 2025

震災被害と被差別に苦しみ続ける在日コリアン2世の父親、そんな父を重荷に感じ別居する母、日本に帰化しようとする姉、灯が心の不調を抱えながらも就職した建築事務所の社長やスタッフ、震災後に寂れゆく地元商店街で苦闘する人々、様々に個別の状況の下で被災者である登場人物たちの描写が、総体として、あの大震災の癒えることのない深い傷を描き出し、その閉塞感に押しつぶされそうな環境の下でどう生きればよいのかわからない、主人公・灯の逃げ場のない心の傷を容赦なく描きつつ、同時に、その「心の傷を癒そうとすること」が、いったいどういうことなのかに、徐々に焦点を絞ってゆくシナリオと演出がこのうえなく感動的です。

©Minato Studio 2025

さらに、映画初主演の富田望生が圧巻の素晴らしさ!その演技の素晴らしさが、おそらく最大限に活かされた演出、キャメラとともに、その一点でも傑出した映像作品だと思います。シナリオに丁寧に書き込まれた、作品を貫く幾つものテーマを一身に体現し、見事に一個の人格として表現してしまう富田望生の力量に目を見張ります。とりわけ、ふたつの途方もない長回しの固定ショットにおける彼女には、唖然としつつ同時に圧倒的な感動がこみ上げます。ひとつはラストの父親との電話シーン。もうひとつは中盤のトイレのドア越しに延々と撮られた、彼女のアクション(の影)と声(叫び)。逃れようのない環境に追い詰められ、精神を病んでいく灯の孤独な闘いが、観る者の胸に切実に迫ります。観ていただくほかはないのですが、映画作品でのこんな長回し固定ショットは、少なくとも私の記憶の中には思い当たりません。そして、彼女を捉えたまま、延々と動かないキャメラが何故これほどの共感と映画的興奮を生み出すのか、説明できません。まさに「映画の力」を体感してくださいとしか言いようがない。

どうぞスクリーンを凝視して、豊かな映像の細部を、できる限り見逃さないように観てください。ショットごとの素晴らしさ、美しさを味わってください。そして、この感動的な映画について、いろいろな人と語りあってください。

〇Mエンターテインメントエグゼクティブ・プロデューサー 園崎明夫

なお、冒頭の写真のコピーライツは©Minato Studio 2025

●映画『港に灯がともる』 2025年1月17日(金)より新宿ピカデリー、ユーロスペース他全国順次公開。関西でも各劇場で公開。

映画『港に灯がともる』公式サイト
映画『港に灯がともる』公式サイト みんなもろい 街も、家族も、わたしの心も 富田望生 初の主演映画 阪神・淡路大震災から30年――2025年1月17日公開
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