沖縄に生まれ、本土復帰後の沖縄を拠点として活動する写真家・石川真生を追ったドキュメンタリー映画。石川氏は今年2月に、沖縄出身の写真家として初の文部科学大臣賞を受賞、3月には土門拳賞を受賞し、今注目を集めている。
彼女の「語り」が奔流のごとく映画全編に溢れます。
沖縄に生まれたアーティストとしての思考と行動の軌跡、沖縄とそこに暮らす人たちへの積年の想い、米軍基地と米兵たちのこと、過ぎ去った日々の恋愛、直面する病や命のことなど、淀みなく語り続けられる声と言葉の力に、まず強く引き込まれるでしょう。過去の歴史的事実を伝えるためのアーカイブ映像などは無く、石川真生の「語り」の力と彼女を記録しようとする監督の「意志」表現によるドキュメンタリーとして抜群に面白い!
中国の王兵(ワン・ビン)監督に『鳳鳴―中国の記憶』(2007年公開)という作品があって、中国の1950年代後半から20年以上に亘る反右派闘争や文化大革命の時代を生きた、ある老女の「語り」のみを映像化した、記録映画の極北ともいえる、途方もない傑作があります。スクリーンに映るのは、正面のキャメラに向かって自らの人生を語る老女の姿と「語り」のみで、上映時間180分でなんと18カット!
勝手な感想ながら、『オキナワより愛を込めて』を観ながら、どこか砂入監督の「意志」が王兵と共鳴していると感じるところがありました。それはつまり、なにしろ被写体への肉薄の仕方が尋常ではないところからくる連想と感動かもしれません。
そしてさらに、この作品の素晴らしさは、語り続ける彼女のショットや過去の写真集からの作品映像とともに、砂入監督撮影の景観ショットが随所に挿入されること。その「ショット」の数々が、観客の目と感性に心地よいリズムと情緒を呼び起こし、石川真生という唯一無二の個性が明瞭に浮かび上がってきます。
沖縄各地の自然や街並みの景観を捉えた「ショット」の美しさたるや!静止画に命を吹き込むごとき固定ショットも、完璧と思える速度で横移動するショットもこの上なく素晴らしいです!それらの景観ショットが石川真生の「語り」と一体化したことで、美しく豊饒な「映像詩」として、ひとつの見事な作品が完成したのだと思います。
〇園崎明夫(毎日新聞大阪開発株式会社エグゼクティブ・プロデューサー)
●映画『オキナワより愛を込めて』、関西では9月7日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場で、兵庫・元町映画館では9月7日(土)から9月13日(金)まで、京都シネマでは9月20日(土)から上映。公式サイトは以下です。
なお、冒頭の写真のコピーライツは© MaoIshikawa
コメント