報告 映画「教育と愛国」トークショー 上西充子さんを迎えて 文箭祥人(編集担当)

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昨年12月15日、大阪・十三の第七藝術劇場でドキュメンタリー映画『教育と愛国』の上映後、トークイベントが行われた。その内容を報告します。

法政大学大学院キャリアデザイン学研究科教授上西充子さんと斉加尚代監督が登壇。

上西さんは「国会パブリックビューイング」を主宰する。街頭に国会審議映像を持ちこんでスクリーンに映しだし、その横で自らマイクを握り、ライブ解説を加え、国会で起きていることを人々に知らせる。また、上西さんのツイートを発端とする「ご飯論法」が『第3回大辞泉が選ぶ新語大賞2018』次点および、『2018ユーキャン新語・流行語大賞』トップテンを受賞。「ご飯論法」は、「朝ごはんは食べなかったんですか?」と問われ、実際はパンを食べていたのにそれは隠して「ご飯は食べませんでした」と答え、あたかも何も食べていなかったかのように装うこと。国会で繰り広げられている論点ずらしの不誠実の特徴を、朝ごはんをめぐるやりとりにたとえた。

上西充子さん(右)、斉加尚代監督
目次

政治介入が積み重なり、教科書が歪められている

斉加監督

「映画をご覧になって、どうでしたか」

上西さん

「映画のパンフレットに教育関連の年表が掲載されています。ここまできているのか、と「怖い」と思いました」

映画パンフレットに記されている年表を部分的に抜粋する。

1993年8月 慰安婦問題をめぐる、いわゆる「河野談話」発表

1995年8月 「戦後50周年の終戦記念日にあたって」(いわゆる「村山談話」)発表

1997年1月 「新しい歴史教科書をつくる会」発足、5月保守団体「日本会議」設立

1999年8月 国旗及び国歌に関する法律施行

2001年1月 「ETV2001 シリーズ戦争をどう裁くか」第2回「問われる戦時性暴力」(NHKで放送)番組改変

2006年9月 第1次安倍晋三内閣誕生

2006年12月 教育基本法改定。「愛国心」が戦後初めて盛り込まれる。旧法第10条を改変。「不当な支配に服することなく」は残るも「国民全体に対して直接に責任を負って」は削除され「法律の定めるところにより」の文言が入る

2007年9月 沖縄で教科書検定意見撤回を求める県民集会に約11万人が参加

2010年4月 大阪維新の会、発足

2011年6月 公立校の教職員に君が代の起立斉唱を義務づける全国初の条例案「大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例」が成立

2011年8月 大阪維新の会が、“教育基本条例案”を発表

2012年2月 「日本教育再生機構」主催「教育再生民間タウンミーティングin大阪」開催

2012年12月 第2次安倍晋三内閣誕生

2014年1月 <政府の統一見解>に基づく記述をするよう教科書検定基準等改定

2017年3月 小学校「道徳」教科書の検定結果公表。1年生の「道徳」教科書でパン屋が和菓子店へ変更、通過。検定意見は8社あわせて200件以上

2018年4月 小学校で「道徳」教科化スタート

2019年4月 中学校で「道徳」教科化スタート

2020年9月 菅義偉内閣が発足

2020年10月 日本学術会議推薦の新会員105人のうち6人の任命拒否判明

閣議決定で教科書の記述が変えられた!

上西さんは映画の後半に出てくる閣議決定の場面を取り上げる。映画はナレーションでこう伝える。

「2021年4月、教科書に対する最大の政治介入の日が訪れる。政府はついに、教科書の言葉遣いへの直接介入を始めた。発端は、二通の「答弁書」を閣議決定したことだった。一つめは「従軍慰安婦」という用語は「誤解を招く恐れがある」として、単に「慰安婦」とするのが適切とした」

「もう一つは、戦時中の朝鮮半島から日本本土への労働者の動員を「強制連行」とひとくくりにする表現も適切でない、とした。日本維新の会からの質問に答えるものだった。教科書の記述は政府見解に基づくと決めた2014年の検定基準の見直しがここで効力を発揮する」

そして、映画は5月10日の衆院予算委員会で菅義偉首相の答弁を映し出す。菅首相はこう答弁した。

「教科書の検定基準については閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解が存在する場合は、それに基づいて記述されていること、これが基準のひとつになっています。したがってご指摘の件についても、文部科学省が教科書検定において政府の統一的な見解を踏まえ、適切に対応する、このように承知しています」

上西さん

「一般の人が「閣議決定」と聞くと、政府が大きな方針を出したと受け取りますが、『教育と愛国』に出てくる閣議決定はそういうものではありません。国会議員が質問主意書を出したら、政府は答弁書を出さなくてはいけなくて、その時まず、閣議決定という手続きに入ります。だから、一人の国会議員の単なる戦略といってはなんですが、この国会議員の質問に対して、政府が答弁書を出す際に、閣議決定を行う。こうした仕組みの中で、国会議員が「従軍慰安婦」や「強制連行」という表現はいかがなものかと質問して、閣議決定によって、いきなり教科書の記述を変えなければいけない。そういうところまで来てしまっています」

斉加監督

「閣議決定によって、従軍慰安婦と朝鮮半島からの強制連行という言葉は不適切だとされてしまって、歴史の教科書から、従軍慰安婦の従軍という部分と強制連行という言葉が消えていくんです。これまでであれば、教科書検定制度の中で教科書の編集者と執筆者、教科書調査官がやり取りをして、修正がされていました。教科書検定で合格した教科書ですら、そこに書かれている用語が閣議決定によって消されていく、私は衝撃を受けました」

上西さん

「歴史学の積み重ねの中で、十分に吟味されて、教科書の表現になっているものが、一人の国会議員と政府とのやり取りによって、文言が修正されなければいけないのは、非常に理不尽です」

上西充子さん

どれだけの人がこの事実を知っているだろうか。上西さんがこう話す。

「私はこのことを新聞で読んだ記憶がないんです。閣議決定によって記述を変えざるを得ないところまで追い込まれている事態に至っていて、でも、それを私たちが気付かない状況になっている。気付かないでここまできていることを『教育と愛国』が描いています。怖いなと思いますし、よく描いてくれたなあと思います」

斉加監督

「従軍慰安婦と強制連行の記述に関する報道は、いくつかの新聞で記事になりましたが、扱いが大きくなかったんです。東京新聞の望月衣塑子記者に聞くと、東京新聞では小さな記事が載ったけれども、閣議決定で歴史用語が消えたとは知らなかったと言っています。きちんと国民に伝わるほどには報じられませんでした」

上西さんは会場に向けて、「国会審議を読むことができます」と、こう説明する。

「映画のパンフレットに全シナリオが掲載されています。従軍慰安婦と強制連行の教科書記述について、「衆議院予算委員会 2021年5月10日」で取り上げたと書かれています。「国会議事録検索システム」のHP( https://kokkai.ndl.go.jp/#/)をみれば、実際のやり取りを読むことができます。それをみると、日本維新の会の議員が質疑していることがわかります。政府に質問主意書を提出したのも、日本維新の会の議員です」

国会議事録検索システムを使って調べると、質問主意書を提出したのは日本維新の会の幹事長、馬場伸幸衆院議員(現在は代表。大阪17区)、衆院予算委員会で質問したのは日本維新の会の藤田文武衆院議員(現在は幹事長、選対本部長。大阪12区)。

菅首相が答弁した衆院予算委員会から3日後、文部科学省が動く。映画はこう伝える。

「文部科学省は、中学校の社会、高校の地理歴史・公民科の教科書を発行する20社近くを対象に臨時の説明会を開く、という通知を出した」

さらに映画は文科省が教科書の出版会社に示した書類を映し出し、こう伝える。

「文科省が示したのは「訂正申請」という手続きだった。「訂正申請」とは、出版社が検定合格後の教科書の中に誤字や脱字など間違いを見つけた場合、自主的に修正を申し出るというものだ。この「手続き」を使って検定を合格した教科書の中の「従軍慰安婦」と「強制連行」が不適切な言葉だとして、書き換えを暗に促したのだ」

この「訂正申請」に対して、上西さんがこう話す。

「出版社が自主的に「訂正申請」を出した形をとっているので、出版社が不当な圧力を受けたとは言えないんです。そういう意味で、ニュースにならない形で事態が変えられています。政府はうまく一つ一つステップを踏んできていると感じました」

国の巧妙なやり方で教科書の記述が変わる

斉加監督

「教科書の出版社は、いろいろなルールに縛り付けられています。例えば、「訂正申請」を出版社が提出しても、それがどういう中身なのかをメディアを含めて部外者に言ってはいけない、という決まりがあります。ある出版社に「訂正申請を出しているんですか?」と聞くと、「それは言えません」と取材拒否されました。面識がある編集者に電話すると、「お願いだから、電話をかけてこないでください」と言われました。メディアと接触しているのが分かっただけで問題視されるぐらい緊張感の中、「訂正申請」の作業が進められているのだとわかりました」

これを受けて上西さん

「どうしてこんな不当な圧力に屈してしまうのかと問題意識を持ちますが、踏み込んだ記述をすれば、教科書が採択されなくなって、出版社が倒産まで追い込まれる、こういう映画のシーンをみると出版社がものを言えなくなっていくと思います。非常に閉塞感を感じます」

映画に、小学1年道徳教科書の書き換えシーンがある。斉加監督がこう説明する。

「映画の冒頭、パン屋さんが和菓子屋さんに書き換えられるシーンがあります。教科書出版会社最大手の東京書籍の教科書です。パン屋さんがイラストに描かれていた読み物は教科書検定で、「『伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度』に照らして、扱いが不適切」とされました。このことについて、文科省教科書課は「決して、和菓子屋さんにしろとは言っていない。東京書籍さんが自主的に変えたんです」と説明します」

上西さん

「国が圧力を認めない、その巧妙さです」

上西さん

「歴史の教科書の記述も、道徳の記述も、中身が差し替えられてしまう、これは本来、大問題です」

斉加監督

「大問題だと思います」

出版社の中はどうなっているのか、斉加監督が報告する。

「東京書籍とは違う出版社ですが、絵本作家さんがザリガニ釣りをしている子どものイラストを描いたんです。そうすると、編集者がまじめな顔をして、「ザリガニではだめなんです。ザリガニは外来種だから川エビでないといけない」と言ってきて、川エビに描き直したそうです。このようなことがたくさん、起こっているようです」

上西さん

「以前だと、「おかしい」と声が上がったじゃないですか。でも、教科書の記述がこういうふうに変えられたと言えない、黙らされてしまう、声が上げられない状況に段々、追い込まれていって、もう声が上がらなくなった。一人一人が問題意識を持ちながら黙っている状況から、問題意識をあまり持たない人が増えてきているのかもしれないと危惧します」

先生たちはどういう状況にあるのか?

斉加尚代監督

斉加監督は各地の映画館で来場者と対話を続けている。その中には現役の学校の先生も。

「40代だと思われる先生が私に「国民統合のための教育をどうしたらいいのでしょうか?」と真面目に聞いてきました。私は「国民統合は必要でしょうか」と返すと、「学習指導要領に国家・社会の形成者を育成すると書いてあります」と。これに対して、「国家のために育成しなくてはいけないのでしょうか」とさらに返しました。すると、そばにいた別の先生が「学習指導要領そのものを疑ってかからないのか、君は!」と言って、その先生は質問を止めました。上から下りてくることを真面目にやらなくてはいけないと先生自身も心理的に追い詰められているんだと感じました」

上西さん

「私たちが国家を形成するということと、国民の統合が必要だということは、別の次元の話です。だけれども、そこがつながっているということです」

斉加監督

「教育は誰のためにあるのか、という軸が何か見えなくなっています」

上西さん

「子ども一人一人が考えるような教育をされている先生がいる一方、先生は教室が統制されている方がやりやすいということがあるので、その意味では、先生という立場自身が権威を帯びてしまう、それに従ってくれる方が楽であるというところに慣れてしまうと、先ほどの先生のように国民統合のような発想になってしまう、そういう気がします」

さらに斉加監督は、文科省で教科書を担当する職員が発する言葉を紹介する。

「文科省の職員が道徳の教科書の編集者に「スキルが足りない先生でもスタンダードな授業ができる教科書作りを目指してください」と繰り返し言ったそうです。教科書には指導書が付いていて、この指導書の通りやれば、授業が組み立てられるようになっています。スタンダードな授業と聞くと、A先生もB先生もC先生も、目の前の子どもたちがどんな子どもであっても、同じ授業をするとしたら、怖くないですか」

上西さん

「児童や生徒に合わせていないということもそうだし、先生の主体性が無くなってしまいます」

斉加監督

「先生がロボット化するというか、AIに置き換えられていく土壌を作ってしまいかねない、子どもの学びの深さにも影響するのではないかと心配になります」

上西さん

「2020年に日本学術会議の任命拒否が大きな問題になって、学問の自由という話がありましたが、これは有名な学者だけのことではなくて、個々の先生の話でもあります。先生自身が問題意識を踏まえながら授業を行う状況において、学問の自由が保障されていないと、先生たちは生き生きとした授業ができなくなると思います」

斉加監督

「先生自身が日頃、学んでいる専門知を高める努力をしているはずで、その専門知を自由に生徒に受け渡せない状況は、結局、教室の学びを先細りさせると思います」

上西さん

「そういう授業はおもしろくないと思います」

全国の上映会や講演に出向き、対話を続ける斉加監督。沖縄でのこと。

「県立高校の社会の先生が平和教育で集団自決を取り上げようとしたら、PTAを介して、「教科書に載っていないことをなぜ、ことさらに学習させるんだ」と批判的な意見がきたそうです。「教科書に載っていないだろう!」が「教えるな!」という圧力になっていると聞きました。数学や理科であれば教科書に載っていない応用問題を教えると、より深く学ぶことができると歓迎されるんじゃないかと話したんですが、なぜ、歴史だと攻撃されるのか、不思議でした」

上西さん

「教えるのはこの範囲までしかだめです、ということになってしまっているんですね」

斉加監督

「沖縄戦に限らず、戦争の加害の記述や日本軍にとって不名誉な史実を、なんとか矮小化しようと、消してしまおうと、いろいろな攻撃があるようです」

上西さんが演劇「歌わせたい男たち」を紹介する。「歌わせたい男たち」は、ある都立高校の保健室を舞台に、卒業式での「国歌斉唱」をめぐる教師たちの攻防を描く。2005年の初演では、連日立ち見が出る大盛況となった。劇団二兎社の代表作で、第13回読売演劇大賞最優秀作品賞などを受賞。14年の時を経て再演。

上西さん

「学校の終業式で、君が代を歌わなくてはいけないのですが、社会科の先生が「私は日本の加害の歴史を知っているから歌えない」と抵抗します。校長が「あなたの気持ちはわかりますが、40秒だけの辛抱ですから、歌ってください」と説得するんです。この演劇をみていて、本人の声でたった40秒であっても、自分を偽るということは重いことだと感じました。そういうようなことが日々、教育の現場で行われているのだろうと考えさせられました」

斉加監督

「たった40秒なんだから、歌った振りをしたらいいじゃないか、という保護者もいます。けれど、真面目な先生ほど、「自身の教育観と密接に結びついていて、自身の良心が問われている、まさに内心の自由が問われている出来事なんだ」と話します。先生たちに君が代を義務付ける、強制していく流れが、先生たちが自由を失っていく、ルールに縛り付けられて考えることを奪われていく過程と、重ねっていると感じました」

さらに。

「大阪市では、体罰をした先生よりも、君が代を歌わなかった先生の方が、処分が重かったんです。普段、子どもたちのために献身的な先生が、たった40秒で低い評価を受けて処分されています」

上西さん

「目立って争いになるより、取り合えず立っておこうと、私たちは思ってしまうところがあります。これが積み重なっていくと、知らず知らず、自分の中に抵抗の芽が失われていく、こういうことがあると思います」

斉加監督

「大阪維新の会が政治主導の教育改革に着手した、その最初は、2011年6月の大阪府国旗国歌条例です。先生たちに君が代を斉唱させることを強制させていくと。翌年2012年3月、口元チェックをする民間人の校長が現れます。当時の橋下徹市長が、「素晴らしいマネージメントだ」と称賛するわけです。口元チェックはある意味、人間性を奪いかねない行為で、それを素晴らしいと評価するのは、本来の教育と真逆の行いであり、公教育を変質させてしまうと危機感を覚えました」

上西さん

「口元チェックがあって、取り合えず歌っておこうかとなれば、何も問題が表面化しないわけです」

斉加監督

「条例施行後も起立斉唱しなかった先生は、労働組合に熱心な先生や労働組合の執行部の先生ではなくて、「え、あの先生が!」と周りが驚くような目立たない先生がけっこう、立って歌わなかったわけです。君が代を歌いたくない生徒がクラスにいるからという理由や自分は敬虔なクリスチャンだからと歌わなかったり、個別の理由で立たない先生が大阪の場合、多くいました」

上西さん

「この演劇に在日韓国・朝鮮人の生徒の話が出てきます。日本にはいろいろな人が一緒に暮らしています。君が代を歌わせることについて、こうした人たちへの配慮がありません」

大阪の教育に政治が介入 語り継がれている<2・26ショック>

斉加監督

「大阪は先駆的な人権教育がなされてきたとずっと、言われています。大阪以外の地域で映画を上映した後、「大阪の先生たちは傷めつけられているけれど、実践力が今でもすごくて、様々な先駆的な取り組みが受け継がれている。平井美津子先生が今も教壇に立っているのが、実践力のモデルだと思います」と声を掛けられました。でも、子ども中心、人間の尊厳は不可侵だという軸に持って教育実践をしようという取り組みが、やり玉にあげられています。政治の側から考える子どもをつくらなくていい!と言っているのではないかと疑いたくなります」

上西さん

「平井先生が現役の先生で、映画に顔を出して、出演していることは大切だと思います。映画に出ると、自分自身がパッシングを受けるとか、学校側が非難されたら大変だと黙ってしまいがちです。誰かが、発言しないと問題が表面化しません」

斉加監督

「平井先生に取材を申し込む時、緊張しました。映画に出演することでパッシングが再燃するかもしれない、どんな嫌がらせがまた、押し寄せるかもしれない。けれども、記録として残したいと考えました」

平井美津子さんは大阪府内の公立中学校に勤務する。歴史を教える社会科の先生。慰安婦問題を授業で取り上げる。平井先生の授業は実践的と注目され、共同通信の取材を受け、紙面に載る。当時の大阪市長だった吉村洋文氏がツイッターで、記事に「従軍慰安婦」という表現があったことを根拠に、この授業は「史実に反する軍による強制連行」を教えていると批判した。平井さんは授業で「従軍慰安婦」という言葉を使っていなかった。

斉加監督

「大阪の教育現場で当時の市長だった吉村さんが「史実に反する授業をやっている」というデマと言っていい書き込みをツイッターでし、それによって、学校に嫌がらせの脅迫文が押し寄せたという記録を残したいと平井さんにお願いしました。平井さんは、「私も記録を残すことを選びたいです」と取材を受けてくれました。映画の公開後、平井さんに対しても、私に対しても、嫌がらせは一切、ありません」

平井さんは大阪府教育委員会から繰り返し、過去の授業内容を問いただされた。最終的に大阪府教育委員会は、平井先生のこれまでの授業は適切だった、と結論付けた。

大阪で、教育に対して政治圧力や政治介入が強まったのはいつからか、斉加監督がこう話す。

「2012年2月26日、大阪で行われた教育再生を掲げるタウンミーティングで、安倍晋三元首相が発言しました」

映画は、教育に関する安倍元首相の発言を記録している。

「政治家がタッチしてはいけないものかって、そんなことはないですよ。当たり前じゃないですか」

映画には、安倍元首相と当時大阪府知事だった松井一郎が握手するシーンも記録されている。

斉加監督

「大阪の先生たちは<2.26ショック>と呼んで、今も語り継いでいます」

問いが生まれる「学び舎」の教科書に対して、誰が大量の抗議はがきを送ったのか?! 

 

森友学園元理事長の籠池泰典さんが安倍元首相の発言を会場で聞いていた。籠池さんは一時、安倍氏を信奉していた。

斉加監督

「籠池さんから電話がかかってきて、「斉加さん、いい映画でしたね」と誉めてくれました」

籠池さんは映画に登場する。「学び舎」の教科書を使うと決めた学校に大量の抗議はがきが送られてきた。差出人に籠池さんの名前が記されている。「学び舎」の教科書は、考える歴史を目指し、中学校の歴史教科書から消えた慰安婦について取り上げる。抗議はがきには「反日」とか「採用をやめろ」という文言があった。籠池さんは抗議はがきについてインタビューを受け、その場面が映画に取り上げられている。

斉加監督

「籠池さんはこう言いました。「思い出しました。私が一生懸命、抗議はがきを送ったのは、防府市の松浦さんに頼まれたからです」と」

防府市の松浦さんは、映画にも登場する元防府市長の松浦正人氏。抗議はがきの差出人に松浦氏の名前もあった。

斉加監督

「映画のインタビューで、籠池さんは「日本会議からの指示が下りてきた」と応えていますと指摘すると、籠池さんは「それもあったけれども、松浦さんから頼まれたから頑張った」、さらに、「松浦さんは安倍さんから頼まれたんだと思います」と言いました。松浦さんは安倍さんの名前を言ったのかと聞くと、「安倍さんの名前は出さなかったけれど、僕にはそれがわかったから、頑張ったんです」と話しました」

元防府市長の松浦正人氏もインタビューを受け、そのシーンが描かれている。

斉加監督

「松浦さんは、学び舎の教科書に対して反日だとレッテル張りをして、学校に抗議はがきを送っているのに、その教科書を1ページも読んでいなかったことがわかりました」

上西さん

「圧力をかける側が、そんなふうにカジュアルに圧力をかけて、かけられる側は本当に悩むわけですよね」

斉加監督

「教科書の出版会社は、過去に街宣車が押し寄せてきたり、脅迫状が届いたりはあったんです。ただ、教科書を採択した子どもたちがいる学校現場に直接、組織的な抗議行動がいくことはこれまでなかったことです。学び舎の編集部も、自分たちではなく、学校に抗議はがきが送られたことに随分、苦悩したと聞きました」

学び舎の教科書は全国各地の難関と言われている私立中学校を中心に採用されている。

斉加監督

「学び舎の教科書は、歴史を暗記物ではなくて、子どもたちからいろいろな問いが生まれて、その時代その時代の人々がなぜ、その社会を選択したのか、なぜ戦争に向かう暴走を止められなかったか、そういうことを子どもたちが議論し学び合う、それに適した教科書であるから、採用されたんです。むしろ、今、政治圧力によって、子どもたちの問いを奪う、なぜかということを考えさせないような教育に向かっていると言えると思います」

〇「教育と愛国」公式サイト

映画『教育と愛国』公式WEBサイト
映画『教育と愛国』公式WEBサイト 知ってほしい 教科書で“いま”何が起きているのかを――2017年度ギャラクシー賞・大賞を受賞した話題作が、追加取材を加えついに映画化!2022年5月13日(金)よりヒューマントラ...

●上西充子さん著書「政治と報道 報道不信の根源」(扶桑社)

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斉加監督

「言葉の使われ方が今、おかしくなって歪んでいるのではないか、上西さんの著書「政治と報道」が明らかにします。教科書の用語の書き換え、報道の言葉の置き換え、これらに共通する問題は、根っこでつながっていると感じます」

〇ぶんや・よしと  1987年MBS入社。2021年2月早期退職。 ラジオ制作部、ラジオ報道部、コンプライアンス室などに在籍。 福島原発事故発生当時、 小出裕章さんが連日出演した「たねまきジャーナル」の初代プロデューサー

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