「ボストン市庁舎」行政も警察も「多様性」を体現ーー「大阪市長に観てほしい」  日比野敏陽

  • URLをコピーしました!

「ボストン市庁舎」のひとこま©2020 Puritan Films, LLC – All Rights Reserved

「多様性」や「公共性」とは、実はなんだろう。そのありようを具体的に語ることができる人は、実はリベラル層でも少ないと思う。
「ボストン市庁舎」(フレデリック・ワイズマン監督)を見ると、それを語りたくなる。あのシーン、この一コマこそ、ボストンの多様性じゃないか!ーなどと。
ワイズマン監督の一連の作品同様、解説もナレーションもないが、ボストン市役所は何をしているのかを克明に見せてくれる。

目次

失敗を率直に反省する警察

冒頭のシーンから印象的だ。ボストン市警と市長ら市幹部の会議。市警幹部はイベント警備の難しさやこれまでの失敗を率直に語り、より良い警備のあり方を模索する。絶対に謝らない日本の警察を知るものとしては、驚くしかない。
カメラは消防や保健衛生、死亡記録や高齢者福祉などさまざまな行政サービスの現場に密着する。職員と市民の、プライバシー満載の会話もそのまま収録されている。

「ボストン市庁舎」のひとこま©2020 Puritan Films, LLC – All Rights Reserved

人種間の摩擦を調整する行政の哲学

ボストンは市民の半数以上はアフリカやアジア、ヒスパニック系などのマイノリティが占める。それぞれが問題を抱え、白人コミュニティとの摩擦もある。ボストン市役所の仕事は問題の解決ではなく、調整に過ぎない。しかし、その根底に多様性とマイノリティ尊重があることを、ワイズマン監督の冷徹なカメラは伝える。
ワイズマン監督としては比較的短い作品とはいえ、4時間を超える大作だ。でも、眠くならない!なぜだろう。

マイノリティー尊重掲げる市長

その理由の一つは、アイルランド系の市長マーティン・ウォルシュの存在だと思う。多様性とマイノリティの尊重は市長の譲れない方針だ。カメラは事あるごとに、現実と格闘する市長の表情を映し出す。それを通して市民の抱える問題も浮き彫りにする。
市民との対話をする気がまったくなく、マスコミに対する一方的な発信にひたすら注力し、議論より上意下達が効率的な行政だと言い募る大阪の多数派政党の関係者にこそ、この映画を観てもらいたい。
蛇足だが、ウォルシュ氏は現在、バイデン政の労働長官を務めている。

ボストン市庁舎©2020 Puritan Films, LLC – All Rights Reserved

日比野敏陽 京都新聞記者、元新聞労連委員長
関西では1月2日から大阪・シアターセブン
1月22日から神戸元町映画館
近日中に京都・出町座で公開予定。
オフィシャルサイトhttps://cityhall-movie.com/
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次