「あの時代」と今が見事に繋がるー高橋伴明監督『「桐島です」』 園崎明夫

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高橋伴明監督の作品歴は一般的には1982年の『TATTOO<刺青>あり』から語られることが多いようですが、70年代後半20歳代ですでに数十本のピンク映画を撮っていて、作品のクオリティからかなりの注目を集めていました。少なくとも十数本は見た記憶のある学生時代の私には、なかなかに刺激的で感動的な映画が多かったです。

中村幻児や井筒和幸ら、ほぼ同世代の監督たちの活躍とともに、ピンク・ヌーヴェル・ヴァーグと呼ばれていたような記憶もあります。もうフィルムが現存していないかもしれませんが、たとえば異能の女優・田島はるか(森都いずみ)主演の『赤い性・暴行傷害』や『蕾を殺る』などは、衝撃的かつ強烈にエモーショナルな青春映画の傑作でした。70年代は学生だった高橋伴明青年が、若松孝二らとの関りのなかで、学園闘争からピンク映画界へ入り、自分自身の戦場で懸命に闘っていた時代だったのでしょう。それゆえに生み出された力のある作品群だったのだと思います。

©北の丸プロダクション

新作『「桐島です」』は、その時代の監督自身の闘いと今が見事に繋がった、「青春」の映画であり、「闘争」の映画です。新作は、前作『夜明けまで、バス停で』と明らかに繋がった世界観で、その重要なキーワードは「腹腹時計」。全国的な学園闘争がほぼ終息したあとの70年代半ばは、「東アジア反日武装戦線」の各グループが連続企業爆破事件を起こし、多くの死傷者が出て、ほどなく大道寺将司(「狼」部隊リーダーで「腹腹時計」作成者)らが一斉検挙され、桐島聡たちが指名手配の中を逃走した時代。「東アジア反日武装戦線」の「狼」「大地の牙」「さそり」各部隊メンバーたちとまさしく同じ時代を生きた高橋伴明監督の半生に亘る内面の歴史が、前作に続いてここに描かれているように感じます。かつて監督自身が考え、経験した「闘い」への今に続く想いや情熱、そして桐島たちへの共感や否定や悔恨や疑問といった揺れ動く心の軌跡が刻印された映画がこの作品なのではないでしょうか。

©北の丸プロダクション

そしてそろそろ老境に差し掛かった同世代の日本人たちに寄せる監督の精神的なメッセージであるようにも思います。さらにその観客たちに、あの時代に起こったこと起こらなかったこと、自分がしたことしなかったこと、時が流れその時代が今に続く意味を「自問」することを求める映画だともいえるでしょう。

©北の丸プロダクション

桐島聡の死を取り上げた作品は、先に公開された足立正生の『逃走』も素晴らしいので是非観ていただきたいですし、松下竜一著『狼煙を見よー東アジア反日武装戦線“狼”部隊』、韓国の映像作家キム・ミレのドキュメンタリー映画『狼をさがして』(2020年)も、『「桐島です」』に繋がる、興味深く重要な著作であり映像記録だと思います。本作とともにお薦めします。

そしてエンドクレジットの直前、高橋恵子が登場する驚きのラストショットがあります。高橋伴明・恵子夫妻がこの作品に込めた極めて明確なメッセージが観客の心を打ち抜きます。お見逃しなく!

●毎日新聞大阪開発株式会社エグゼクティブ・プロデューサー 園崎明夫 

〇映画「桐島です」 7月4日より全国公開 

映画『「桐島です」』公式サイト
映画『「桐島です」』公式サイト 指名手配犯・桐島聡の、50年に及ぶ逃亡生活を描いた衝撃作

なお、冒頭の写真のコピーライツは©北の丸プロダクション

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