最低な世界を生きる子供たちを「映画」が暖かく抱擁する―『最悪な子どもたち』 園崎明夫

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ある夏、フランス北部の荒れた地区を舞台に、現実にその地域に暮らす問題児たちが主役の映画が企画される。地元の子供たちを集めたオーディションが開かれ、様々な問題を抱えた4人のティーンエイジャーが選ばれた。シナリオは彼ら自身をモデルにした物語。

なぜ問題児ばかりが主役なのか?監督の意図は?住民たちも訝しむなか、波乱に満ちた映画制作が始まる。

「映画の登場人物」を演じるという初めての体験のなかで、子供たちのなかの何かが変わってゆく。

この作品は、「映画」を観ること、「映画」を作ること、シナリオに書かれた人物を「演じる」こと、演じる側、観る側それぞれの「フィクション」と「現実」の関係性など、ひとことでいえば「映画とは何か」についての映画だと思います。いろいろな視点や価値観で鑑賞でき、観る者の感性を揺さぶり、思考を促す、とても興味深い「映画」です。映画好きな方には特に必見でしょう。

(c)Eric DUMONT – Les Films Velvet
(c)Eric DUMONT – Les Films Velvet
(c)Eric DUMONT – Les Films Velvet

古い日本映画が好きな方は、75年前にほぼ同じような、「現実」と「フィクション」の関係性の中で、見事な美しい映画を創り上げた、清水宏監督作品のことを思い出されるかもしれません。清水監督は、戦前の松竹で小津安二郎と並ぶ大監督。小津監督自身が「天才」と評したとか。素人俳優をうまく起用した演出力や、自然と人物を同時に捉える天才的なキャメラワークが活きる、素晴らしい作品がいっぱいあります。

『最悪な子どもたち』を観ながら思い出すのは、1948年公開の『蜂の巣の子供たち』のことです。戦後松竹をやめた清水監督は、戦災孤児たちの世話をしながら、独立プロで映画を制作します。『蜂の巣の子供たち』はその孤児たちがそのままの役柄で、一人の復員兵と共に終戦直後の社会を生きる、一種のロードムービーですが、オープニングの画面に「この映画の子供たちに心当たりのある方はいませんか」と大きな字幕が出てクレジット・本編が始まります。

清水監督は、あの終戦直後に、戦災孤児を養育しつつ、身寄りを探し、映画を通じて子供たちと大人たちのコミュニティをつくり、物語を通して「最悪の状況の中でも」なんとか子供たちに希望を伝えようとしています。そのことが「映画」を通じて伝わってきます。

「映画」には、たしかに「映画」固有の力があります。『最悪な子どもたち』の監督が、そんな日本の古い映画を観ておられるかどうかわかりませんが、まさに「映画」を通じて、子どもたちのために、同じチャレンジをされた同志が敗戦直後の日本にいたということを知っていただきたいなとは思いました。

〇そのざき あきお(毎日新聞大阪開発エグゼクティブ・プロデューサー)

●映画『最悪な子どもたち』 12月9日(土)より、シアター・イメージフォーラム ほか全国順次ロードショー

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映画『最悪な子どもたち』 公式サイト 映画『最悪な子どもたち』公式サイトです。


なお、冒頭の写真のコピーライトは(c)Eric DUMONT – Les Films Velvet

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