

インドの人口は今や14億6千万を超え世界第一位。国勢調査によればヒンドゥー教徒が全人口の約80%を占め、イスラム教徒が約14%、キリスト教徒や仏教徒はさらに少数派になります。日本ではあまり報道されませんが、過去数十年にも及ぶインド国内の不法移民問題、宗教差別問題を背景に、ヒンドゥーナショナリズム(ヒンドゥー至上主義)を掲げる多数派からのイスラム教徒(ムスリム)への抑圧が、より強化されてきています。この映画は、その多数派・体制側の動きに抵抗するイスラム教徒の女性たちの反対運動を、ムスリムの女性映画監督が自身の内面の変革とともに熱く描きだす作品です。ノウシーン・ハーン監督が撮影・編集・ナレーションも務め、インドにおけるマイノリティからの公正で普遍的なメッセージを世界に伝えようとする、感動的なインディペンデント作品です。




映画はまず、ムスリムを社会的に排除しようとする「市民権改正法(CAA)」が制定された2019年12月、反対運動の拠点で監督の母校でもあるジャミア・ミリア・イスラミア大学構内に警察が入り、無抵抗の学生に暴力を振るう混乱の場面を捉えます。権力によるこうした暴力と差別的な法律への抗議として、ムスリムの女性たちが中心となり、ニューデリー南部のムスリム居住区シャヒーン・バーグの幹線道路で大規模な座り込みの抗議活動が始まります。普通の家庭の母や妻でもある女性たちが、日々の暮らしを普通に営みながら、もとより非暴力で100日以上にわたって幹線道路を封鎖して抗議する姿を、ノウシーン・ハーン監督は丁寧に心からの共感をもって記録していきます。座り込みを続ける女性たちの主張や行動を、とても細やかに敬意をこめてキャメラに収めていきます。その平和的で知性的で勇気ある佇まいや言葉の力は確実にスクリーンから伝わり、胸を打ちます。ここに「映画の力」があると実感します。さらに言えば、現代社会におけるメディア報道と映画制作との関係性についての気づきと深い考察を促す、ノウシーン・ハーン監督のインディペンデント映画論としても重要な作品だと思います。




ムスリム女性たちのこの活動は、この国の多くの人の共感を呼び、世代や宗教をも超えてインド全土に広がりを見せたようですが、コロナによるパンデミックの影響もあり、公権力によって強制的に排除され終焉を迎えます。反対運動の敗北を嘆く女性たちの姿に、ノウシーン監督の「私が彼女たちを慰めるためにできる事は唯一つ、キャメラを向ける事だけでした」という言葉が重なります。この作品は「ヒンドゥー至上主義」がもたらす、インドの現在を映し出すドキュメンタリーですが、同時にこの映画を作ったノウシーン・ハーンという一人のムスリム女性の心の旅を描いた、とてもデリケートな人生の物語です。映像とともに、彼女がその内面を語るナレーションをぜひお聴き逃しなく。そして監督の希望を込めたラストカットの素晴らしさ!
映画を観たあと、ぜひ多くの人といろいろなことを語り合っていただける、世界へ向けたインド発自主制作映画の傑作です。
●総合デザイナー協会特別顧問 園崎明夫
〇『わたしの聖なるインド』
2023年山形国際ドキュメンタリー映画祭市民賞、2023年インド・ケーララ国際ドキュメンタリー&短編映画祭最優秀長編ドキュメンタリー賞、2023年オーストリア・カルロタ政治映画&ビデオフェスティバル特別賞
6月6日より渋谷・ユーロスペースにて公開ほか全国順次 公式サイトは以下。

なお、冒頭の写真のコピーライツは(c)2023 Nausheen Khan

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