報告:ドキュメンタリー映画「教育と愛国」トークイベント 映画作家の想田和弘さんを迎えて 文箭祥人(編集担当)

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7月31日、岡山市のシネマ・クレールでの上映後、映画作家の想田和弘さんと斉加尚代監督の2人が登壇して、トークイベントが行われた。その模様を報告します。

想田和弘さんは、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリー手法で2007年に「選挙」を制作、およそ200か国でテレビ放送され、アメリカでは優秀なテレビ番組に与えられるピーボディ賞を受賞。「精神」(08年)が釜山国際映画祭とドバイ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。その後、「Peace」、「演劇1」、「演劇2」、「選挙2」、「牡蠣工場」などを制作。

想田さんは、「教育と愛国」のパンフレットに次のコメントを寄せている。

「戦慄せずにはいられなかった。教育現場でも“熱狂なきファシズム”がここまで進行していたとは…!」

目次

2012年、校長の教員に対する<君が代斉唱、口元チェック>問題、橋下市長と斉加記者の30分間に及ぶ論争

トークイベントはこの<君が代斉唱、口元チェック>を巡る出来事から始まった。

2011年6月、公立校の教職員に君が代の起立斉唱を義務づける全国初の条例案「大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例」が成立した。この時の大阪府知事は橋下徹氏。

斉加さんが当時を振り返る。

「2012年、想田さんはニューヨークを拠点にされていて、ニューヨークから大阪の異変を感じとって、いろいろ発信されていました」

異変を斉加さんが振り返る。

「当時の橋下徹大阪市長と教育をテーマに30分くらい論争になりました。教員の君が代斉唱を巡って、口元チェックするという民間人校長が現れて、橋下さんが『素晴らしいマネジメントだ』と称賛しました。私が府立高校の校長たちにアンケートをした結果、大半の校長が、『口元チェックは適切ではなく、教育的ではない』と考えていることがわかりました。それで、橋下市長に囲み会見で質問しましたが、『起立して斉唱するという職務命令は誰から誰に出されたのか』と逆質問されました。ちゃんと正解を言ったんですけど、橋下市長は『違うだろ』と言って論争になったんです」

想田さんはニューヨークで、この論争の映像をツイッターでみていた。

「教職員に君が代の起立斉唱を義務化したのは橋下さんです。だからこそ斉加さんは校長が口元チェックまでして歌っていない教職員を処分していることについて、橋下市長に質問した。ところが橋下市長は、『あんたは勉強不足だ!オレは条例をつくったが、起立斉唱を命令したのは教育委員会だ。だから教育委員会に聞け!』と罵ったんですよね」

斉加さんは「そうです」と応じ、想田さんが続ける。

「斉加さんと橋下さんとのやり取りの映像はネット上ですごく拡散されていて、コメントをみると、圧倒的に橋下さんを応援するものが多かった。橋下さんに乗っかって、『トンチンカンだ!』とか、『ふざけた取材をするな!』とか、ものすごいパッシングにあったんですよね。普通の取材をしているのに、なぜ、こんなことが起こっているのだろうと、ニューヨークからみていて、すごく怖かったです」

斉加さんが当時を振り返る。

「私自身も何が起きたんだろうと思いました。橋下市長がきっちりと答えないから、質問を重ねて、30分間もやり取りが続いたんです。その後、いろいろなところから、『不勉強だ!』とか、『記者やめてしまえ!』とか、こういう言葉がずっと押し寄せてきたとき、何が起こっているのだろうと疑問を感じました。それと同時に、メディアのなかで『斉加さんは失礼な取材をしたんだ!』とか、『人気絶頂の政治家へのリスペクトが足りない!』とか、同業者から投げられた言葉に大きな違和感を覚え、ショックでした」

驚いたように想田さん。

「そういう言葉をかける同業者がいるんですね」

斉加さん。

「現場にいた新聞記者が、橋下市長とのやり取りの間、ずっとパソコンに向かって記録し続けていたんですけど、『斉加さん、僕はそばにいたけど、指が疲れました』と言われて(この時、会場に笑い声が起こる)、指が疲れるんだったら、質問してくれたらよかったのにと思いました」

この出来事を振り返って、斉加さんはこう話す。

「このころから、メディアと教育現場の空気が、がらっと変わってきたんじゃないかと思います」

想田さん

「このころから、日本は目に見えて全体主義化している、民主主義的価値というものがどんどん後退していく、そういうプロセスが目に見えて進行しているように感じました」

コロナ禍ですすむ教育への維新政治の接近

2020年に入り、新型コロナウイルス感染が拡大。大阪維新の会の政治が教育へ接近する。

斉加さんが説明する。

「安倍晋三元首相が成し遂げようとした教育再生という理念をいち早く取り組んで、教育現場に次々と条例をつくる形で落とし込んでいったのが、大阪維新の会です。大阪は実験台になってきたと思います。それからコロナ禍がおきて、どんどん政治介入が深まってしまいます」

コロナ禍で教育現場に何が起こったのか、斉加さんが説明する。

「昨年4月、松井一郎市長が教育委員会に相談せず、オンラインの授業を一斉に開始すると会見で言ったんですが、教育委員会は何も知らず、準備していませんでした。テレビで松井市長の会見をみた保護者が学校に『オンライン授業が始まるんですね』と問合せをするわけですが、「えっ?」と校長は全然、知らず、説明に窮するわけです。教育委員会もテレビをみて、大慌てするわけです。本来なら、校長らが、子どもたちの学習権を守るためにどうすればいいのか、そこから始めないといけないのに、上から突然、指示が下りてくる、大阪はそれの繰り返しでした」

想田さん

「緊急事態が口実に使われて、直接、政治が教育現場をコントロールしていく契機になってしまった」

斉加さん

「現場の希望を早くすくい上げるような形で動けばいいのですけど、そうではなくて、教育現場から政治をみると、政治は自分たちの統制が利くようにふるまえばいいんだと、教育の中身だとか子どもたちのためとは違う力学で動いているようにみえました」

90年代から学校現場を取材。2010年、大阪維新の会発足。斉加記者がみた公教育の激変

斉加さんが自分自身の記者経験を振り返り、こう話す。

「90年代、大阪の公立小中学校の子どもたちを取材する機会がありました。教室になじめない子どもたちが保健室に集まって、保健室の先生と関わり合う中で成長していく、その場面に触れました。おそらく、教室だと試験の点数だとか、いろいろ評価の対象にされる、でも、保健室だとこうした評価から開放されて、目の前の先生と人としてかかわりあえる、保健室の先生が『何やってねん!』とか、『さぼっていたらあかんで!』とか言いながらも、子どもたちは先生を慕っているなぁとわかって、とても印象深い場面があったんです。体が大きく、やんちゃで、生徒指導の先生が手に負えないような中学3年生の生徒が、やがて自分で進路を決め、卒業式で保健室の先生、横井先生というのですが、号泣しながら『横井、がんばれ!』と叫んで卒業式の会場から退場していく姿をみたとき、教育の大事さ、教育の本質って何か、がここにあるのかもしれないと思ったのが、教育をテーマに取材を続けてきた出発点です」

この取材は「保健室登校」のタイトルで、MBSの夕方のニュース番組で放送された。

2010年4月、大阪維新の会が発足。維新の登場によって教育現場の先生の姿が変わっていったと、斉加さんが振り返る。

「90年代に知り合った先生たちは体当たりで子どもたちにかかわる先生だったんですが、その先生たちがベテランになって、がんばっているのに、大阪維新の会が登場して以降、どんどん表情が曇っていったんです。ある保健室の先生が『アホか!うるさいばばあ!』と言われたと私に弱音を吐くんです。私は『相手が高校生だから仕方がないよ』となぐさめると、『保護者から言われた』と言うんです。橋下さんのいろいろな言説によって、学校や先生たちにクレームが押し寄せてくる。校長に対しても『お前たちはさぼっている!』とか『努力が足りない!』とか言ってきたそうです」

想田さん

「このころ、橋下さんによって公務員が標的にされて、『公務員は叩いてもいいんだ』という雰囲気が作られていきましたね。この先生も標的になって、保護者からそういういじめにあったということですか」

斉加さん

「そうです。まさに標的にされた先生たちが現場で苦しんでいくのを目の当たりにしました。あんなに生き生きとがんばっていた先生が、こんなに意気消沈していくんだ。そのとき、政治の言葉は恐ろしいと思いました」

教育への政治介入 2006年、教育基本法が改定される

想田和弘さんと斉加尚代さん

2006年、教育における憲法と言われる教育基本法が改定された。「愛国心」が戦後初めて盛り込まれた。

旧教育基本法10条は、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである」。この条文が変わった。「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり(以下は略)」に改定された。

斉加さんが改定のポイントを説明する。

「『教育は不当な支配に服することなく』の冒頭の部分は変わっていません。しかし、重要なのは、改定された教育基本法は、新たに、「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり」となった点です。つまり、教育は法律に従って行うと変わったわけです。だから、法律に従っていればいいんだというスピリッツに変えられたんです」

想田さん

「その法律がとんでもない法律かもしれないわけですね」

斉加さん

「ルールを守らない先生は退場しろという、これも2006年から始まった政治の圧力と結びついていると感じます」

そして、ここに“熱狂なきファシズム”をみると想田さんが言う。

「教育基本法改定は第1次安倍内閣のときです。一見、ほんのちょっとした文面の変更のようにしかみえない、だから、当時、そんなに国民は反対しなかった。ところがそういう小さな変化が積み重なっていくうちに、ボディーブローのように、それこそ、低温火傷のように、じわじわと利いてくる。知らない間にもう、ゆでカエルになっていたという感じが本当にします」

2014年、教育委員会制度が変わる。政治家に任命権が渡る。

2014年6月、教育委員会制度が変わり、教育委員会の長である教育長は政治家が任命することになった。

教育委員会制度の見直しに関して、斉加さんは映画でも取り上げた大阪府内の公立中学校に勤務する平井美津子先生に起こった出来事を話す。

「平井先生が長年、培ってきた慰安婦問題の授業を巡って、新聞記事は好意的に報じたのに、当時の吉村洋文市長が『史実に反する』という事実を曲げた言葉を入れて、ツイッターに流したため、学校にいやがらせや脅迫状まで届いたんです。この時、学校現場は標的にされた平井さんの方に問題があると、思い込ませるようなふるまいをしました。これは2018年の出来事です。その7年前ほど前は、大阪府教育委員会は、大阪維新の会の政治に対して、教育行政に政治介入はよくないと、教育長も教育委員も口々に言っていたんです。それが平井さんが標的にされた2018年、大阪府教育委員会は一切、平井さんを守ろうとしませんでした。むしろ、私の取材に対して、『記事に従軍慰安婦と書かれているから強制連行を教えていると誤解される』と言うのです。それは誰が言っているのかと聞くと、『誤解されるんです』としか答えない。これは政治家が言っていることを教育委員会の担当者が繰り返しているのであって、学術的知見とは違う判断で動いているんです」

平井先生は授業で「従軍慰安婦」という言葉は使っておらず、平井先生の授業内容は適切だったという調査結果がその後、大阪府教育委員会から出された。

教育委員会制度について想田さんがこう言う。

「先の戦争の反省から、教育の独立性が脅かされないように教育委員会制度をつくって、教育委員長は政治家が任命するのではなく、教育委員が合議で選ぶとなっていた。ところが2015年から「教育長」の任命権が政治家に握られたわけですから、政治家の意向を聞かざるを得ない、あるいは、政治家の言うことを聞くような人が任命される」

斉加さん

「教育長が政治家に任命されるようになって教育長の権限が強まった教育委員会になった途端、どんどん変質していきました」

想田さん

「このこともあまり報じられなかったですよね。人々の意識にものぼらないうちに、知らないうちに、ちょっとずつ法律やルールが変えられていく。<教育現場でも“熱狂なきファシズム”がここまで進行しているとは…>と映画のパンフレットのコメントにも書きましたが、まさに、2013、14年ころから、日本では“熱狂なきファシズム”が進行してきたと思います。“熱狂なきファシズム”とは、低温火傷みたいな感じで、じわじわ、こそこそと、知らないあいだに進んでいくものです。そうして気がついたときには体が動かなくなっていく。ファシズムというと、カリスマ的な指導者がいて、みんなが熱狂して一気に社会が変わっていくイメージがあるけれど、そうじゃなくて、特にこの国では、人々の無関心に乗じて、ちょこちょこちょこちょこ変えられていきます」

2021年、教科書の記述に閣議決定を使って政府が介入

2014年にはもうひとつ、変わったことがある。政府の統一見解に基づく記述にするよう教科書検定基準等改定だ。この改定の効力が発揮されたのが2021年。この年、2つの閣議決定が行われた。教科書の言葉遣いへの直接介入だ。一つは、「従軍慰安婦」という用語は「誤解を招く恐れがある」として、単に「慰安婦」とするのが適切とした。もう一つは、戦時中の朝鮮半島から日本本土への労働者の動員を「強制連行」とひとくくりにする表現も適切ではない、とした。

斉加さん

「日本史の教科書の執筆者の一人がこう言っています。教科書を記述する際、教科書調査官から、数行であっても学術的根拠を厳しく求められる、その一方で閣議決定という学術的根拠がない政治の決定が教科書に流れ込んでくる、これは学問の冒涜としかみえない」

想田さん

「研究者でもない、ただの大臣たちが勝手に学術用語を変えてしまう、しかも教科書会社はそれを使わざるを得ない」

「道徳」が2018年から教科化。戦後73年ぶりの復活

「かぼちゃのつる」

「道徳」の教科化は、小学校では2018年から、中学校では2019年から始まった。戦後73年ぶりに正式な教科に戻された。

斉加さんが小学校1年生の「道徳」の教科書に記述されている読み物を紹介する。

「小学校1年生の道徳の教科者の読み物に、『かぼちゃのつる』というのがあります。かぼちゃはつるを伸ばすのが得意で、自分の畑からどんどん、つるを伸ばしていくんです。みつばちや蝶が『かぼちゃくん、つるを伸ばし過ぎたらだめだよ』と注意をするんですが、『僕はつるを伸ばすのが好きなんだ』と言って、どんどん伸ばして、道路につるが伸びてしまって、そこに車が来て、つるが轢かれるんです、かぼちゃくんが『痛いよ、痛いよ』と言って、終わるんです。(会場から悲鳴)これは「規則の尊重」という徳目で習います。注意されても、つるを伸ばし過ぎてしまったら、痛い目に合うと教えるんです」

さらに斉加さんが続ける。

「海外各国には、日本の『道徳』に相当する『倫理』という課目があって、人類の普遍的価値を教えるそうです。集英社新書『今を生きるカント倫理学』(著者:秋元康隆、ドイツ在住、トリア大学講師、専門は倫理学、特にカント倫理学)を読むと、『日本の道徳教育に対してカントは絶対、ダメ出しをする』と書いてあるんです。『学術的ではないとカントは判断するだろうから』がダメ出しの理由です」

想田さん

「『倫理』は、社会がどうであれ、自分自身の倫理観、自分の正しいと思う事、いけないと思う事を基準にするものです。一方、自分はそっちのけで、みんながいいということをやるというのが道徳。だから、正しくネーミングもされてしまっていると思います」

斉加さん

「教科書をみて、ぎょっとする読み物もありますから、そういう読み物について、学校の先生とちょっと意見交換すると、先生もおかしさに気付いてくれると思います」

取材を受けると政治的だとみられる、だから取材を拒む教科書会社

教科書会社がどういう状況にあるのかを知ることはむずかしい。内情を斉加さんが報告する。

「ある教科書会社に取材を申し込んだんですが、断られました。その理由を聞いて驚きました。教科書の編集者が、取材を受けると政治的中立性を疑われかねない、と言ったんです」

想田さんは大笑いしながらこう話す。

「理由がよくわからないですね」

斉加さんの解説

「取材を受けると、政治的だと見られてしまう、政治的中立性を疑われる、ということです。それと、取材を受けて目立って、文科省や政治家に目をつけられると困る、こういうことなんです」

斉加さんは「でも」と挟んで、話を続ける。

「一方で、東京大学名誉教授の伊藤隆さんは、堂々と語ってくれるんです」

(伊藤隆さんの名前が出ると、会場は大笑い)

伊藤隆さんは映画に登場する育鵬社の教科書の代表執筆者。「歴史から学ぶ必要はない」と述べる歴史研究者。

文科省、だれでも授業ができる教科書を要求

文部科学省の内情も知ることはむずかしい。斉加さんが報告する。

「文科省は教科書会社に、どんな先生でもスタンダードな授業ができるようにしてほしいと、リクエストしています」

想田さん

「であれば、先生はロボットでいいじゃないですか」

斉加さん

「そうなんです。教科書も指導書も丁寧な記述になっていて、その通りに授業ができるようになってしまっています。一方、大阪市、府の教育委員会や校長は、これまでは、先生たちに創意工夫し授業をしてください、と言っていましたが、今は、教科書通りに教えてください、と言っていて、この圧力が強い、学校によっては、教科書通りでなくていい、工夫してください、と言う校長がいればいいですけど、教科書通りに教える時代になってきています」

先に登場した現役の先生、平井美津子さんの言葉を斉加さんは紹介する。

「平井さんは『いろいろ考える先生の方が苦しくなる』と言います。これを聞いて、ぎくっとしました。考えないで言われたとおりに教えた方が楽なんです。だから、先生が思考停止してしまう」

想田さん

「教育の目的が、ロボットのように上からの命令を従順に受け入れる、そういう人間をつくるということに変わってしまったんだと思います。ロボット先生によってロボット人間をつくる、その方が、規格外の人間が出てこないということです。みんな同じ性能をもった、命令をよく聞く製品が出来上がる、そういうことでしょう」

斉加さん

「逆に、学校に違和感を持った子どもたちが、この映画を観て、すごく感動したと言ってくれます」

映画「教育と愛国」大ヒット! いやがらせの声はゼロ

映画「教育と愛国」は今年5月、全国の映画館で上映が始まり、3か月が経った。大ヒット公開中。

斉加監督は全国の映画館をまわり、舞台挨拶を続けている。

「各地の劇場で舞台挨拶していますが、温かく迎えてくださる方が多く、私のなかで大きな希望になっています」

気になるのは、映画に対するクレーム。斉加さんはこう言う。

「いやがらせは、一切ありません」

会場は驚きの声。

映画を観た人たちの感想を斉加さんが紹介する。

「20代の女性。2006年の教育基本法改定の後、公立の学校で学んできた女性です。『教室の中でルールを守らない友達は、のけ者にしていいんだという空気がずっとありました。先生もそういうふうにふるまっていました。でも、自分は何かがおかしいと思い続けてきたけど、映画を観て、何がおかしいか気付きました』と話していました」

教職に就きたいとう女性の感想。

「『くやしいです』と私に言って、涙が止まらなくなっていました。『教員志望で先生になりたいと思って、勉強してきましたけど、こんなことになっているなんて』と話して、こみ上げる感情が抑えられないという感じでした」

斉加さん

「純粋に先生になりたい、子どもたちと学び合いたいと思っている人たちには、映画で伝えた教育の現場は、衝撃なんだと思います」

想田さん

「いったい、だれのための教育かと思います。大人の都合で子どもたちに何か注入したい、洗脳したいというようにみえます」

斉加さん

「洗脳できると思い込んでいる教育観がそもそも、おかしいと思います。小中学校の児童・生徒に対して洗脳できると考えている政治家がいるんだと思います」

教育と放送に浸透するマネタイズ

想田さんがこう質問する。

「大ヒットを毎日放送はどう受け止めていますか?」

斉加さんがこう応える。

「マネタイズできない作品だ!と当初は映画化に消極的でした」

想田さん

「放送局が、マネタイズという言葉を使うんですか!」

マネタイズは「収益化する」という意味。「マネタイズできない作品だ!」はお金を稼げない作品ということ。

映画「教育と愛国」は、2017年毎日放送テレビで放送した番組「映像’17 教育と愛国~教科書でいま何が起きているのか」をベースに、追加取材と再構成をして完成した。斉加さんが続ける。

「教育は普遍的なテーマだから是非、テレビ番組を映画化するべきだという社外の人たちから背中を押してもらいました。私は、この時代、大阪ローカルを越えて、全国に届けたいと言い続けました」

「マネタイズの見通しがつきました」と斉加さんが報告すると会場から拍手が起こった。

「冷ややかだった会社の人たちから祝辞を述べられました」

想田さん、斉加さんはマネタイズの話を続ける。

「もともと、民間放送は商業放送という名称ではなく、民間放送という名称で民主主義社会に寄与するための放送を始めました。それは公益性や公共性を重視すべきだ、自由な言論空間を支えるメディアなんだ、こうした理念でスタートしています。戦前、NHKが国家に統制され一色に染まった反省のもと、民放は誕生しました。しかし、この出発点が忘れ去られかけていて、とにかくマネタイズだという経済の論理が強くなっています」

想田さん

「教育も同じですね。人文系の専門分野がどんどん追いやられていて、お金になる、応用できる、役に立つ、と言われる学問・研究だけに予算を重点配分していく、これは「マネタイズできるかどうか」を基準に学問分野が価値づけされているということですよね。つまり教育改革・教育再生というのは、『マネタイズできる教育を作る』ということなのだと思います」

さらに、「観察映画」の想田さんはこう言う。

「教育とメディアに起こっている現象を別々の現象とみるより、同じ現象が別々の領域で現れているとみた方が、正確なのかなぁと思います」

○映画「教育と愛国」上映情報

映画『教育と愛国』公式WEBサイト
映画『教育と愛国』公式WEBサイト 知ってほしい 教科書で“いま”何が起きているのかを――2017年度ギャラクシー賞・大賞を受賞した話題作が、追加取材を加えついに映画化!2022年5月13日(金)よりヒューマントラ...

●「何が記者を殺すのか 大阪発ドキュメンタリーの現場から」(著:斉加尚代 集英社新書)

集英社新書
何が記者を殺すのか 大阪発ドキュメンタリーの現場から - 集英社新書 久米宏氏、推薦!いま地方発のドキュメンタリー番組が熱い。中でも、沖縄の基地問題、教科書...

○「日本人は民主主義を捨てたがっているのか?」(著:想田和弘 岩波ブックレット)

岩波書店
日本人は民主主義を捨てたがっているのか? - 岩波書店 橋下現象とは何だったのか.安倍政権の狙う改憲の本質とは.日本社会の直面する危機を鋭く描出する.

○ぶんや・よしと 1987年MBS入社。2021年2月早期退職。 ラジオ制作部、ラジオ報道部、コンプライアンス室などに在籍。 ラジオ報道部時代、福島原発事故発生当時、 小出裕章さんが連日出演した「たねまきジャーナル」の初代プロデューサー。

●協力:山本真也(NPO法人ミニコラ職員)、シネマ・クレール

山本真也さんは想田和弘監督作品「精神」、「精神0」の精神科医山本昌知さんのご子息

http://www.cinemaclair.co.jp/a6215.html

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