「民主主義」って?と問いかける刺激的なテキストー映画『能登デモクラシー』 園崎明夫

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能登半島の中央部、石川県鳳珠郡(ほうすぐん)穴水町(あなみずまち)。人口6,888人。若者と高齢者の人口がともに減ってゆく「人口減少の最終段階」にあるとされる地域。想定以上の速さで少子高齢化の進む日本の縮図ともいえます。

町の中心部からさらに離れた「限界集落」に暮らす元・中学校教師の滝井元之さんは、2020年から手書きの新聞「紡ぐ」を発行し、過疎の町の未来と「民主主義」に警鐘を鳴らし続けています。

(C)石川テレビ放送

映画は、「何もしなければ何も変わらない」という滝井さんの活動を中心に、穴水町の町議会や町長、住民の姿を映し出していきます。石川テレビの五百旗頭幸男監督は、2024年1月1日能登半島地震の被災状況やその後の混乱をも取り込んで、穴水町を多角的に取材し、議会や行政に蔓延る惰性や忖度、利益誘導型の政策など課題の根深さ、民主主義の危機を具体的に映し出してゆきます。そして滝井さんの手書きメディアの発信力や自らボランティア活動に奔走する姿が、町会議員や町長、役場を少しずつ「民主的」に変えつつある姿も、同時に捉えられています。

(C)石川テレビ放送

ここには私たちが、私たちの社会の基底にあるべきものと信じ、絶えず耳にし口にする「民主主義」「デモクラシー」なるものの根本が、とても分かり易くさりげなく描かれていると感じます。「何もしなければ何も変わらない」のは、議会や行政への言葉であると同時に、その地域に暮らす一人一人の住民にも大事なことで、その視線がとても自然に、かつ力強く伝わってきます。

(C)石川テレビ放送

また、この作品は昨年5月に石川テレビでテレビ版が放映され、その段階でも大きな反響があったとのこと。地方のテレビ局、いわゆるローカル・メディアの社会的役割、存在意義自体がこういう形で、具体的にドキュメントされることも興味深かったです。おそらくマスメディアには難しい立ち位置や視点で、現地に暮らす人たちとのある種の「共闘」を実践し、事実を伝えること以上の価値を生み出す可能性がそこにはあるのではないでしょうか。さらに全国公開される「映画」へと連結した発信力、表現力、影響力の強度は、あの東海テレビ作品の成果などを思えば、今後のローカル・メディアの大きなテーマでしょう。

五百旗頭幸男監督 (C)石川テレビ放送

言わずもがなのことを承知で申し上げますが、滝井さんの奥さんの順子さんの愛すべき人間性からは「人を大切にする」という、「民主主義」の根本が伝わってきます。

滝井元之さん、順子さん (C)石川テレビ放送

ともあれ、今あらためて「民主主義」とは何か、と問いかけるとても現代的で刺激的なテキストとして、素晴らしいドキュメンタリー作品だと思います。

●毎日新聞大阪開発エグゼクティブ・プロデューサー 園崎明夫

〇『能登デモクラシー』 2025年5月17日(土)、[東京]ポレポレ東中野、[大阪]第七藝術劇場、5月23日(金)、[京都]京都シネマ、6月14日(土)[神戸]元町映画館、5月24日(土)[金沢]シネモンドほか全国順次公開。

映画『能登デモクラシー』公式サイ...
映画『能登デモクラシー』公式サイト 映画『能登デモクラシー』25年5月劇場公開

なお、冒頭の写真のコピーライツは(C)石川テレビ放送

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