大阪のメディアを考える「大阪読売新聞 その興亡」83 暗黒の地方部次長編5 安富信

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午前2時から居酒屋へ

 事件事故や災害などで出張が多いのだけど、ルーティンの仕事は退屈だった。前にも書いたが、大阪本社地方部では、3人ひと組(次長、主任、帳付けと呼ばれる記者)で、朝刊当番(泊まり)→明け→休み→中出→夕刊当番→朝刊当番の順に仕事をこなす。
 この流れで行くと、ほぼ同じ顔ぶれでずっと仕事をすることになる。朝刊当番は夕方5時頃に出社、6時過ぎに「土俵入り」と呼ばれる紙面割編集会議が開かれ、当番編集局次長を紙面責任者とし、出稿側の各部の次長と、編成部という一面、二面、三面などの硬派担当の次長、社会面の軟派担当次長、運動面担当次長らと話し合って、紙面構成を決める。要するに、各出稿部の紙面取りの戦いだ。もっと言えば、大阪本社では、よほど大きな事件や政治的な問題がなければ、普段は、社会部と地方部による、社会面トップ記事の奪い合いとなる。
 もっと言えば、大阪本社には政治部がないので、国の政策や霞ヶ関の動向などは主に東京本社から出稿されるので、普段は、大阪から一面や二面に出稿されることが少ない。従って、大阪本社の土俵入りは、ほとんどが社会部vs.地方部となり、社会部の方が力を持っている。まあ、そんなルーティンをこなしながら、午前2時前の締め切りまで、デスク席で、各総支局からの原稿に手を入れ、添削して編成部に出稿し、紙面が作られて行く。
 締め切りが過ぎても、すぐに眠れない。何故なら、新聞各社の大阪本社では、午前3時ごろに、JR大阪駅で出来上がった新聞を交換するという奇妙な伝統がある。「締め切り過ぎたら、あとはノーサイド」ということなのだろうが、現場の記者にとっては、たまったものではない。新聞社は横並び志向のため、この新聞交換によって、抜かれた記事がわかる。重要な記事であれば、追いかける、つまり、裏を取って追随しなければならない。夜中の3時にそんなこと言われても、だ。しかし、今は知らないが、新聞記者に遠慮はない。真夜中、本社から電話がかかって来て、昔ならポケットベルが鳴り、抜かれた事実を突きつけられ、裏取り取材を命じられた。ちなみに、東京本社には何故かこの悪い伝統はない。
まあ、そんな作業をしたり、しなかったりで、ようやく3時過ぎに5階にある、宿直室(2段ベッドが複数ある)で仮眠を取る。ちなみに、午前2時の締め切りから3時までの1時間、地方部では、これも伝統的に会社近くの居酒屋で軽く一杯やる。社会部は社内で酒盛りが始まるが、他の部署では幾つか社外に出るので、新聞社の近くにそんな居酒屋がいくつかあった。今はどうなんだろうか?
 起床は7時半過ぎ。夕刊当番のクルーが出社するのを待ち、引き継ぎをして、ようやく業務が終了となる。と言っても、ハイ、さようならとはならない。大きな事件事故が起きることに備えて、居残りで待機する。これが、夕刊が締め切られる午後2時まで、さらに待機は朝刊クルーが来る5時まで続き、早版の土俵入りが済む6時半ごろに、お役御免となる。

長い長い飲み会、説教…

 それから、このクルーで夕食に出かける。ここからがまだ長い。それは筆者の責任なのだが、食事と言っても当時の新聞記者は「飲み会」だ。酒の肴をつまみながら、ビールや焼酎、日本酒を飲みながらの反省会となり、やがて説教となる。いやはや。調子が出て来ると、スナックやラウンジに転戦し、カラオケを歌い、深夜に会社の契約タクシーで帰宅となる。今は、こんな理不尽なシステムではないだろうが。
 で、翌日は休み。この時期、筆者は逆単身赴任で一人暮らしだったので、生活が乱れていた。午前10時のパチンコ店の開店を待って夜までパチンコ三昧。深夜の飲み会では、当にパワハラ三昧。いやはや、こんな生活をしていたのだ。酷いものだ。こんな生活が5年近く続いた末に、びっくりするような”辞令”が編集の局長から出た。

「1年間、防災の勉強しないか?」

 そんなことを徒然書いていたら、宝塚市内の映画館で、この頃の”被害者”にバッタリ会った。現役で社会部阪神支局宝塚担当のT部さんだ。毎日のように、阪神版にバリバリ記事を書いている。ロビーで次はどの映画観ようかな?とチラシを見ていた時だ。小柄なT部さんが入って来て、喫茶店のママと話している。思い切って声をかけた。「T部さんですよね。記事を楽しく読ませていただいてます」。すると、彼はにっこり笑って「安富さんの教えを忠実に守って書いてます」。見事に切り返された。
 閑話休題。編集局長の辞令とは? ある日、河内編集局長に呼ばれた。局長室に行くと、いきなり言われた。「安富君、1年間どこかで防災の勉強をして来ないかい?」。晴天の霹靂だった。(つづく)

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