20世紀の映像遺産から創造された、新世紀アート体験!『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』 園崎明夫

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予想を超えて、素晴らしく感動的!

壮大で、スピーディーで、複雑で、深く、美しく、新しい映像体験でした!

全編、膨大なアーカイブ映像と多種多様なフッテージ素材とデヴィッド・ボウイ自身の声でのみで構成された、おそらくこれまでほとんど作られたことのない、ロック・アーティストのドキュメンタリー作品だと思います。

ⓒ2022 STARMAN PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ロック・スターの生涯を描く映画は、最近も『エルヴィス』とか、大ヒットした『ボヘミアン・ラプソディ』とか面白いフィクション作品がいっぱいありますが、それらの面白さとは全く違う映像世界が繰り広げられていて、その心地よさに身を委ねつつ、デヴィッド・ボウイというアーティストがすごく身近になる感覚があります。もっとも、プレスリーでいえばラスベガスでの復活公演を記録した映画『エルヴィス・オン・ステージ』が今でも最高ですし、フレディ・マーキュリーのパフォーマンスの素晴らしさは各地でのツアー・ライブ映像に勝るものはおそらく無いので、フィクションの限界というのもそもそもあったりはするのでしょう。

私個人としては、彼の最盛期に大ファンだったわけでもなく(どちらかというとポップ・アイドルっぽい感じがしていて)、むしろボウイの影響を受けたはずのロキシー・ミュージック(ブライアン・フェリー!)とかトーキング・ヘッズのほうが楽曲も好みで、時代の最先端感もあって好きでした。(ちなみにジョナサン・デミが撮ったトーキング・ヘッズのライブ・ドキュメンタリー『ストップ・メイキング・センス』は、今でもロック・ムービーの最高傑作のひとつだと思います。)なので、デビッド・ボウイに興味をもったのは、むしろ彼がほとんど引退同然だった2000年代半ばに、ベルナルド・ベルトルッチが撮った『孤独な天使たち』という、(結果的に彼の遺作になった)とてもとても内向的な青春映画のテーマ曲に、ボウイの「スペイス・オディティ」イタリア語版が使われていて、かなり感動してしまった時です。そして、遅まきながらファンになったのは、今回『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』鑑賞途中ということになります。

何が言いたいかというと、つまり、この作品を観る人は、趣味や年齢、音楽との関わり方によってボウイとの距離感は様々だと思いますが、たとえ元々デビッド・ボウイにさほど興味のなかった人が観ても、その素晴らしさ、傑作感はきっと伝わる、そういう作品だということが言いたいわけです。それは、ひとえにその映画全編を完璧に構築したクオリティの高さ、作品を通じて伝わってくるものの普遍的な強靭さ素晴らしさだということ以外ではありません。

ロックが好きでも嫌いでも、たとえビートルズ以外知らなくても、70年代~80年代に青春を過ごした人なら、その感性や思考に必ず響くものがあると思いますし、もっとずっと若い人たち、とくに映像表現に興味のあるひと、映画製作を志す人、映像関係の仕事に就きたい人には絶対観ていただきたい!21世紀の映像制作の方法論がいっぱい詰まっています。そういう意味からも、必見です!

20世紀のアーカイブ映像を駆使して、まさに今観られるべき「21世紀の映像作品」を制作するということでいえば、この映画観ながら、何度も思い浮かべたのがウクライナの映画監督セルゲイ・ロズニツァです。なかでも、20世紀を生きた一人の人物に寄り添って、その人の発言とアーカイブ映像で織り上げられた傑作『ミスター・ランズベルギス』のこと。1991年のソビエト連邦崩壊のとき、旧ソ連から国家の独立を勝ち取ったリトアニアの最高会議議長ヴィータウタス・ランズベルギスの思考と行動を描く4時間を超える大作です。2018年~22年にかけて制作された『粛清裁判』や『バビ・ヤール』などの作品とともに、「映像の力」の極限を示す傑作です。ソビエト連邦時代に撮影されたニュースフィルムなど、ほとんどすべてアーカイブ映像のみを編集し、ソビエト・ロシアの近現代史を描いて圧倒的な「映画の力」を教えてくれます。21世紀に無くてはならない、素晴らしい映像作家です。

ミスター・ランズベルギス

一人の人物を取り上げ、既存の映像素材と本人の発言のみで素晴らしいクオリティの映像作品で、「20世紀とはどんな時代だったのか」を表現するという意味では、映像制作についての思考様式やその方法論に関して『ミスター・ランズベルギス』と『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』はふたつの象徴的な作品かもしれません。

20世紀は「映像の世紀」と言われるように、限りなく膨大な映像の集積が形成された100年です。21世紀を生きる人間にとって、その世界の枠組みや大衆文化が始まったのは、ふたつの世界大戦があり、ふたつの社会主義大国が誕生した20世紀で、その膨大なアーカイブ映像にどのようにアクセスし、どのように再構成し、あらたな価値や意味を創造するのかが、21世紀の映像文化の使命のような気がします。

ぜひ、どちらの作品も多くの人に観ていただきたいです。

21世紀映像芸術の新しい世界が、広角的に実感できるように思います。

●「デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム」上映情報

https://dbmd.jp/

〇そのざき あきお(毎日新聞大阪開発 エグゼクティブ・プロデューサー)

冒頭の写真のコピーライツはⓒ2022 STARMAN PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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