セルフドキュメントの魅力が横溢する「重喜劇」―『もしも脳梗塞になったなら』園崎明夫

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 映画監督・太田隆文氏は2023年4月に脳梗塞を発症。ご本人によれば「17年間、無茶な仕事を続けたせい」で「両目とも半分失明。脳の障害で文字の読み書きが一時的に出来なくなり、言葉もうまく話せなかった」状態で、心臓機能も低下し、実に3回の手術、2年を超える闘病生活を余儀なくされ、リハビリを重ねてようやく監督業に復帰。そして「僕のこの体験が誰かの役に立てば」「病気を経験して知った人生の大切なことを伝えたい」という強い思いから、今回の作品の制作を決意されたとのことです。

©シンクアンドウィル 青空映画舎


 苦闘の末に完成した新作が『もしも脳梗塞になったなら』。劇映画としてとても面白くかつ深く、闘病中の監督を取り巻く人間群像をリアルに容赦なく描いています。実に辛辣な、それでいて暖かく快調な社会派コメディ映画。物語はすべて監督の身に起こった実話ということで、興味深いセルフドキュメントでありつつ、内包している生死の問題の深刻さや社会問題的側面から言えば、かつて今村昌平監督が語った「重喜劇」という言葉も重なります。監督の思いが投影されているのでしょう、イングマール・ベルイマン監督『第七の封印』の死神との命をかけたチェスシーンも引用され、「死の恐怖」が象徴的に印象的に描かれたりします。

©シンクアンドウィル 青空映画舎

 ところで本作を観て気になっていたことがひとつあります。少なくとも私にとっては大事な事実です。
 太田監督は2023年春の映画製作中に脳梗塞を発症され、その映画は2024年夏に完成しますが、私の理解するところでは、その作品は『沖縄狂奏曲』でしょう。戦後の沖縄基地問題を扱った素晴らしい傑作ドキュメンタリーです。
 キャッチコピーが「マスコミが報道できない、沖縄基地問題。そのすべてを語る」で、その通り実に丹念な調査や取材や構成に時間や労力を費やされた、「戦後沖縄基地問題」についてのここ数年でも群を抜いて充実した映像作品でした。「マスコミが報道できない」事実をドキュメンタリー映画作品として、今こそ提供しようとした監督の、それこそ「命がけで制作された映像作品」だったと思います。

©シンクアンドウィル 青空映画舎

 さらに太平洋戦争末期の沖縄地上戦を描く『ドキュメンタリー沖縄戦ー知られざる悲しみの記憶』が2020年に、つづく『乙女たちの沖縄戦ー白梅学徒の記録』が2023年に『沖縄狂奏曲』に先立って公開されています。どの作品も並々ならぬ誠実な努力が結実した作品です。冒頭に引いた監督の言葉、脳梗塞を発症したのが「無茶な仕事を続けたせい」だと語っておられるのを見て、沖縄の戦中戦後をテーマにあれだけの映像作品を作り出した監督の努力が、同時に思い浮かびました。

©シンクアンドウィル 青空映画舎

 できれば新作『もしも脳梗塞になったなら』と同時上映で『沖縄狂奏曲』を再映していただける劇場があればよいのになと思ったりしています。

●総合デザイナー協会特別顧問 園崎明夫

©シンクアンドウィル 青空映画舎

『もしも脳梗塞になったなら』
 12月20日から東京ケイズシネマほか全国で順次公開。
 関西では12月20日(土)からキノシネマ神戸
 27日から大阪・第七藝術劇場
 1月27日からアップリンク京都で公開。
 公式サイト https://moshimo-noukousoku.com/index.php

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