昨年7月16日に急逝したジェーン・バーキンの一周忌を追悼し「ジェーンB.ニエスV.~二人の時間、二人の映画」と題して、『アニエスV.によるジェーンB.』と『カンフーマスター!』の二作品がデジタルレストア版で再映されます。
60年代以降、もっとも注目されてきたファッション・アイコンにして、女優として、歌手として、きわめて個性的な活躍をしてきたジェーン・バーキンと、フランス・ヌーヴェルバーグの先駆的なアーティスト、アニエス・ヴァルダが出会って遺されたふたつの映像世界。
バーキンは70歳の時のインタビューで「女性の理想の年齢って、何歳でしょう?」と訊かれて、「40歳」と即答しています。真意はともかく、今回のヴァルダとの2作品は、まさにバーキン40歳のころ制作・公開された作品です。
『アニエスV.によるジェーンB.』はアニエス・ヴァルダの自意識と美意識の世界を、全編ジェーン・バーキン主演で描いてみたという、カラフルで、自由で、遊び心満載のフィルム。コメディ映画や西洋絵画好きの人は特に楽しめるかも。気軽に観られますが、けっこうディテールの密度は高いので、意外に大スクリーン向き!
『カンフーマスター!』はバーキンが発案し自分で書いた原作をヴァルダ脚本・監督で映画化したもの。バーキン演じる40歳の主婦ジェーンと娘の同級生で25歳年下の少年とのラブストーリー。最近公開されたトッド・ヘインズの『メイ・ディセンバー ゆれる真実』にもつながる世界でしょうか。
異様と言えば異様な物語ですが、この上なくピュアな物語でもあります。この映画にはバーキンの身内が勢ぞろいで、二人の実の娘をはじめ、両親や兄は本人、舞台になるロンドンの家は実家、さらに少年を演じるのはアニエスの実の息子で、主婦ジェーンと少年のキスシーンを目撃して涙ながらに「不潔よ」と言うのが、ご存じ長女シャルロット・ゲンズブール。ジェーンは意外に動揺することなく「私は悪いことはしていない。娘のために自分の愛を犠牲にしたくない」そんなふうに考えます。さらに、こじれた親子関係から距離を置くため、そしてジェーンの「愛」のために、少年との無人島への小旅行を勧めるのが実の母親という、こちらも虚実織り交ぜた激しいラブストーリーに、すべての観客が翻弄されます。そして、この配役もバーキンの意向を反映したものとか。どこまでも普通でない、唯一無二の傑作「恋愛映画」です!
何はともあれ、観客は、まず頭と心を精一杯自由にして、この映画に身を委ねてみることをお薦めします。理想の年齢40歳のバーキンの美しさに魅入り、無人島での少年との時間を映し出す映像のこの上ない美しさに動揺し、恋とは何か、自由とは何かを想ってみてはいかがでしょうか。そして、その直後にやってくる、唐突なラストシーンもまた、観る人の自由な心の世界のなかに、その様々な意味があります。
ちなみに、個人的にはジェーン・バーキン主演・ゲンズブール監督『ジュテーム・モア・ノン・プリュ』(1976)やアニエス・ヴァルダ監督『冬の旅』(1985)もぜひ観ていただきたいです。今回のふたりの特集上映がより楽しめると思います。
〇毎日新聞大阪開発エグゼクティブ・プロデューサー 園崎明夫
︎●公開情報 8/23(金)よりテアトル梅田、8/30(金)より京都シネマ、シネ・リーブル神戸 他全国順次ロードショー
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