映画『絶唱浪曲ストーリー』は、浪曲という伝統芸能の魅力を描きつつ、浪曲界のレジェンドたちの至芸が、新人浪曲師・港家小そめたち次世代に継承されていくさまを記録したドキュメンタリー!川上アチカ監督が8年の歳月をかけて完成させた力作で、迫力満点の浪曲口演シーンや、玉川奈々福ら当代スターの出演も見どころ!
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6月25日(日)、浪曲師・春野恵子さんの入門20周年を記念して、彼女の独演会を主催しました。今年は近松門左衛門三〇〇回忌ということもあり、恵子さんの演目は「おさん茂兵衛(大経師昔暦)」と「女殺油地獄」。曲師(三味線)は一風亭初月さん、共演に京山幸乃さん。3人での浪曲界入門についてのトークもあり、大盛況のうちに幕となりました。恵子さんたちの語り芸と三味線で繰り広げる浪曲の世界は、「此の時、此の場所」でしか出会えない、一期一会の素晴らしいエンターテインメントでしたし、トークコーナーでは、演者の皆さんにとっての浪曲の魅力や、浪曲とともに生きている日々のお話が楽しく、とても爽やかでした。一人でも多くの方が、「浪曲」の世界に親しんでいただければ、という思いがまたさらに強くなりました。
とはいえ、今この時代に、浪曲を自分自身の人生の仕事にすることは、特別なことではあると思います。これからの日本で、浪曲師や曲師が表現しようとするものが、いったいどのように受容されていくのでしょうか。「国定忠治」や「清水次郎長」や「忠臣蔵」や、あるいは近松や西鶴の世界は、どのように楽しまれていくのでしょうか。「浪曲」という、日本人に愛され親しまれてきた伝統的な芸能に、どのような新時代がくるのか、正直わかりません。
しかし浪曲とともに生きてきた伝説的な名人が存在し、浪曲に人生を賭けようという若い人たちもたしかにいて、そこに、とてもとても美しい絆が確実に生まれ、浪曲の世界が継承されてゆく。映画『絶唱浪曲ストーリー』という作品が感動的なのは、その浪曲の世界の継承が、「人生の継承」としても描かれていて、一人の若い女性が、自分の人生を懸命に自分で選び取ってゆく姿と、その弟子に寄り添い、自分の人生で築き上げてきたものを、惜しみなく彼女に差し出す老名人の姿が胸に迫ります。その姿は、数々の「浪曲」の演目そのものの世界が伝えるものと通底しているとも感じます。そこにはとても「爽やかな」、人が生きてゆくことのシンプルな真実が、きっと宿っています。
あえて言えば、浪曲という芸能にほとんど親しみのない人たちにこそ、観ていただきたい作品です。「浪曲」の素晴らしさか「人生」の美しさか、あるいはその両方が感動的に伝わってくるはずです。
◇劇場公開
7月1日(土)よりユーロスペース、ほか全国順次公開
◇そのざき あきお 毎日新聞大阪開発 エグゼクティブ・プロデューサー
なお、冒頭の写真のコピーライツは(C)Passo Passo + Atiqa Kawakami
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