ホロコースト証言シリーズ映画『メンゲレと私』 12歳でアウシュヴィッツ強制収容所に連行されたダニエル・ハノッホが伝える言葉 文箭祥人(編集担当)

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ホロコーストで犠牲となったユダヤ人の子どもたちはおよそ150万人である。そのうち、アウシュヴィッツ強制収容所に連行されたユダヤ人の子どもは推定21万6千人、1945年1月にソ連軍が収容所を解放した際、生存していた子どもたちは、わずか451人だった。

ユダヤ人、ダニエル・ハノッホは、12歳の時にアウシュヴィッツ強制収容所に連行される。ダニエルはランペと呼ばれる降荷場で、木製の荷車に死体や荷物を乗せて、クレマトリウム(ガス室や焼却場などの複合施設)へ運ぶ仕事に従事させられる。時にダニエルは、囚人たちから双子の子どもたちを選び出し、人体実験を行った、“死の天使”と呼ばれていたヨーゼフ・メンゲレ医師の模範的な囚人役を務めねばならず、さらには戦争末期に西部へと向かう“死の行進”にも連行される。終戦間際、収容所でカニバリズムを目撃する。映画『メンゲレと私』は、“子どもらしい時代”を過ごすことが出来なかった、現在91歳のダニエル・ハノッホの少年時代の視点から、人類史の最暗部を浮き彫りにする作品である。

『ゲッベルスと私』(2018年公開)、『ユダヤ人の私』(2021年公開)に続く「ホロコースト証言シリーズ」第3作。

12月6日、大阪・十三の第七藝術劇場で映画『メンゲレと私』の先行上映が行われた。上映に先立ち、イスラエルと大阪をネットでつなぎ、ダニエル・ハノッホさんの孫のアンナさんとゲイルさんが舞台上のモニターに登場。祖父ダニエルさんに代わって、アンナさんが舞台挨拶を行った。

アンナさん(右)、ゲイルさん

「今日、ご一緒できることをとても楽しみにしていました。私たちは今日、健康上の理由でこの場に来られなかった私たちの最愛の祖父を代表して、参加しています」

孫のアンナさんは、映画に映し出される祖父の証言をどのようにとらえているのか。

「この映画は、私たちにとっても、祖父にとっても意義深いものです。祖父の物語が、あの戦争で生じた惨劇を思い起こさせるものとして、また、この作品が、私たちの社会がこの世界における人間の悪や暴力、人種差別、盲目主義を根絶する責任を共に担っていることを思い起こさせるものとして、機能することを嬉しく思います」

祖父ダニエルさんがいつも語る言葉。

「祖父は連帯の偉大な信奉者です。その寛容な心と、人々への愛のおかげで、祖父は何とか生き延びることができ、他の人たちさえも救うことができたのだと常に言っています。戦時中、祖父はアウシュヴィッツに送られた131人の少年少女のグループの中で重要な存在でした。彼らの友情と連帯感が、彼らに生きる希望と力を与えたのです。彼らは戦後も、互いに連絡を取り合い、生きている者たちは今日も、そうしています」

戦後80年になろうとする今、戦争やホロコーストの記憶を消し去ろうとする人たちが大勢いる。

「あの恐ろしい戦争が終わってから、およそ80年が経過しましたが、すでにそれを否定したり、忘れようとしたり、さらには、歴史から消し去ろうとする人たちさえ、大勢います。たとえ「ショア」(Shoah(ショア)はヘブライ語で、ホロコーストの意味)が終わっても、私たちの家族、そしてユダヤ人・非ユダヤ人問わず、人間の悪のために、大切なものをすべて失った、何百万もの家族のあいだでは、「ショア」は決して終わってはいないことをお伝えすることは、私たちにとって重要なことです」

ダニエルさんはこう警告する。

「戦争という恐ろしい行為は、一日で生じた訳ではありません。悪と恐怖がゆっくりと社会に浸透していき、人と人との溝を深めていったのです。祖父は、ナチスの殺人者たちもまた人間であり、このようなことは、どこででも再び起こりうることだと常に強調していました」

ダニエルさんが長年専念したこと。

「祖父は長年にわたり、若い世代に、悪や人種差別、恐怖について認識させ、それらを人々への愛や互いへの尊重、また、性別や出自を問わず、すべての人への連帯に変えることを伝えようと専念してきました。今日、私たちがここにいて、互いに愛し合い、悪を防ぐことについて語ることは、私たちの国やガザで、このような恐ろしい戦争が起きているときには、とても難しいことですが、祖父が私たちに教えてくれた、本質的な教えが受け継がれていくことを可能な限り願っています」

悪を防ぐためにどうするのか。

「祖父は、悪や、閉鎖的な考え方を防ぐには、家族という、小さなことから始めるべきだと言っています。両親や大人たちを尊重し、そして声が外にはなかなか届かない弱者を尊重することなのです。私たちの地球と、私たち人間を含め、地球を共有するすべての素晴らしい生き物を思いやることで、悪の輪が善の輪に変わるかもしれません」

証言することの苦痛や証言を聞く人たちが抱く恐怖を理由にホロコースト生存者の多くが証言することを嫌がるという。ダニエルさんは積極的に会話を続けようとする。

「祖父は私たちに、恐れたり、隠れたりするのではなく、常に耳を傾け、観察し、笑い、善いことを創造することを教えてくれました。人間の悪の頂点をその目で見てきた祖父は、人間に対する希望を決して諦めない人なのです。この歴史的に複雑な時代に、政府による暴力が増加し、沈黙や疎外が見られるなか、私たちは、今日ここにいることを選択しました。今日これから、皆さんに観ていただく映画は、異なる人間性や、希望を描く作品であることをお伝えします。私たちと祖父は、心の底から、この重要な作品に感謝しています」

〇ぶんや よしと 1987年毎日放送入社、ラジオ局、コンプライアンス室に勤務。2017年早期定年退職

●上映情報 関西では12月9日から大阪・十三の第七藝術劇場で、12月15日から京都シネマで、来年1月27日から神戸・元町映画館で上映。全国順次公開。なお、12月9日から第七藝術劇場では『ゲッベルスと私』と『ユダヤ人と私』も上映。『メンゲレと私』の公式サイトは以下です。

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