「核のある世界」のコンディション=状態を捉え、描く―映画『リッチランド』 園崎明夫

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ワシントン州南部にあるリッチランドは、第二次世界大戦中にアメリカが国を挙げて原子爆弾の開発・製造を目指した「マンハッタン計画」における、核燃料生産拠点「ハンフォート・サイト」で働く人々とその家族が生活するために作られた町。

平穏で美しい典型的なアメリカ郊外の町だが、地元高校フットボールチームのトレードマークは“キノコ雲”と“B29爆撃機”。

© 2023 KOMSOMOL FILMS LLC

1945年8月9日長崎に落とされた原子爆弾「ファットマン」のプルトニウムはハンフォート・サイトで精製されたもので、終戦後は冷戦時に数多く作られた核兵器の原料生産も担い、稼働終了した現在は国立歴史公園に指定され、多くの観光客が訪れているという。

アイリーン・ルスティック監督はリッチランドに暮らす住民、原子力産業の関係者、核廃棄物による被曝者、先住民の家族たちの声を丹念に取材し、核兵器と深く関わってきた町の、多様な視点で捉えられた過去と現在の状況を描き出します。

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それは、第二次世界大戦末期に原爆が実戦で投下され、その後冷戦期に厖大な核兵器を溜め込んできた今の世界の様相が「リッチランド」に凝縮されているようでもあり、監督インタビューに出てくる概念、「核の存在する世界のコンディション=分散された状態」を映し出そうとする意図が伝わります。

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映像自体、登場する人物やグループのインタビューの場所が戸外であることも多く、背後のアメリカ中西部に広がる荒野や砂漠地帯の荒涼たる風景が、「核のある世界」の不安や恐怖や憂鬱、希望なき安心感、「核なき世界」に二度と戻れない荒涼とした気分を映し出していると感じます。

ラストに登場する被爆3世のアーティスト・川野ゆきよさんの「原爆」インスタレーションの印象も忘れがたく、個人的にはこのシーンで、峠三吉の『原爆詩集』を思い浮かべ、後日またいくつかの詩を読みました。

いずれにしても、誰一人無関係では無い「核のある世界」を自分事として感じ、考えるため、ぜひ多くの方に観ていただきたい作品です。
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毎日新聞大阪開発株式会社

エグゼクティブ・プロデューサー

園崎 明夫

●シアターイメージフォーラム(東京)で公開中。関西では、7月20日(土)から第七藝術劇場、元町映画館、7月26日(金)から京都シネマで上映。「リッチランド」公式ホームページ

『リッチランド』公式ホームページ
『リッチランド』公式ホームページ 「キノコ雲は 我らが誇り」 原爆を作るために生まれた町・リッチランド。『オッペンハイマー』のその後、アメリカの“核”を担い続けてきた町の知られざる歴史と現在―。その...

なお、冒頭の写真のコピーライツは © 2023 KOMSOMOL FILMS LLC

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